遷移状態から考える反応速度と選択性

有機量子化学特論 第 04 回 | 教科書 第 4 章

安定な生成物が最も多くできるとは限らないのはなぜか

有機量子化学特論 第 04 回 遷移状態から考える反応速度と選択性

前回の復習

1 前回の問い「同じ分子でも、なぜ環境で性質が変わるか」:溶媒を替えて両側の がどちらも下がっても、比が変わるのはなぜでしたか

2 比誘電率がどちらも高い溶媒どうしで、小さな陰イオンだけ移行の が大きくずれたのはなぜでしたか

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問い 1安定な生成物が最も多くできるとは限らないのはなぜか

配座 A が %、B が % で、速く行き来する(配座変換)。P のほうが が低く、できたら戻らない。B からの反応の速度定数は、A からの 倍

予想 主生成物はどれか

  1. P
  2. P と Q が半々
  3. Q
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有機量子化学特論 第 04 回 遷移状態から考える反応速度と選択性

今日の流れ 教科書 §4.1〜4.8

問い 1安定な生成物が最も多くできるとは限らないのはなぜか

  1. 安定な生成物と、速くできる生成物は同じか
    速度支配と平衡支配 → と速度定数の比
  2. 配座が二つあるとき、生成物の比は何で決まるか
    生成の速さ → 例題 → 遷移状態の の差 → 配座変換が遅いとき → 演習 A
  3. 生成物比を変えるには、どこの を下げるか
    配座 B の割合を増やすか、遷移状態を下げるか → 演習 B

今日の数値は、説明のために選んだ値(研究の実例を除く)

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安定な生成物と、速くできる生成物は同じか 教科書 §4.1

出発物が一つで、生成物 P( が低い)と Q ができるとき

  • 戻らないなら障壁の低い Q が多い(速度支配)。行き来できるほど長く待つと の低い P が多い(平衡支配)
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基礎の確認・・ は、何が違うか 教科書 §4.3

速度定数は、出発する状態と遷移状態の の差 で決まる

アイリングの式  ボルツマン定数  プランク定数 前提:一次の速度定数、透過係数 1

  • 速度定数を決めるのは 。 を含まない量だけでは決まらない
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二つの経路の速度定数の比は、何で決まるか 教科書 §4.2・4.3

同じ出発物から P・Q へ。アイリングの式を二つ書いて割る

・ P・Q ができる速度定数  障壁の差(Q の経路 − P の経路) 選択性 一方の生成物への偏り

  • 生成物どうしが行き来しないなら Q/P = 。298 K で 5.7 kJ/mol ごとに 10 倍
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配座が二つあるとき、生成の速さで比べる 教科書 §4.4

ここからは出発する状態が配座 A・B の二つ。問い 1 の分子の例

  • 生成の速さ = 割合 × 速度定数。少ない B が多い A を上回ることがある
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例題:少数の配座から主生成物ができる

α-アミノケトン CH₃–CH(NMe₂)–C(=O)–CH₃ の還元で、ジアステレオマー P・Q ができる。配座 A が %、B が % で、A から P だけが、B から Q だけが不可逆にでき、B からの速度定数は A の 倍、配座変換は十分速い。P:Q はおよそいくつですか
(a) 90:10 (b) 50:50 (c) 8:92 (d) 1:99

解き方B は A の 1/9 でも、速度定数は 100 倍

① 求めるもの生成の速さの比

② 式と前提

 配座変換が速い → 90:10 が保たれる

③ 代入

(c) 8:92(Q/P = 11)

④ 意味P が 1 個できるあいだに Q が 11 個

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同じ比が、遷移状態の の差からも出る 教科書 §4.4

例題を の図で見る(TSA・TSB:A・B からの遷移状態)

B の G5.4TSB67.0

  • 配座の は存在比と障壁の両方に入って打ち消す。配座変換が速ければ、比は遷移状態の の差だけで決まる(カーティン・ハメットの原理)
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配座変換が遅いと、どうなるか 教科書 §4.5

例題の前提「配座変換は十分速い」を外す。同じ分子 100 個で見る

時間0 s

  • 配座変換の時間 が反応の二つの時間のどちらより短ければ遷移状態の の差で決まり、どちらより長ければ初めの配座比に近づく
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配座変換は、反応よりどれくらい速いか 教科書 §4.6

配座変換は単結合の回転。 を回転の障壁から見積もる

回転の障壁(kJ/mol)

アイリングの式の逆数、298 K  A から測った配座変換の障壁

  • 単結合の回転は反応よりずっと速い。回転が妨げられると前提が成り立たないことがある
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演習 A:存在比と速度定数の比、配座変換の速さ

配座 C が %、D が % で、それぞれから X・Y だけが不可逆にできる。D からの速度定数は C からの 倍

298 K で kJ/mol、

  1. D の は C より何 kJ/mol 高いですか
  2. 配座変換が反応より十分速いとき、X:Y はいくつですか
  3. 配座変換の速度定数が C → D で 、D → C で s⁻¹ に下がった。反応の速度定数は C から 、D から s⁻¹ のままとする。このとき X:Y は、問 2 の値と初めの配座比 75:25 のどちらに近づきますか

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演習 A の答え(1)

配座 C が %、D が % で、それぞれから X・Y だけが不可逆にできる。D からの速度定数は C からの 倍

は 1 より少し大きい → 差は より少し大きい

問 1 D の は C より何 kJ/mol 高いですか

① 求めるもの

② 式と前提

 書き直すと

③ 代入

2.7 kJ/mol

④ 意味3 倍多い C のほうが、 が 2.7 kJ/mol 低い

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演習 A の答え(2)

配座 C が %、D が % で、それぞれから X・Y だけが不可逆にできる。D からの速度定数は C からの 倍

D は C の 1/3 でも、速度定数は 20 倍 → Y のほうが多い

問 2 配座変換が反応より十分速いとき、X:Y はいくつですか

① 求めるもの生成の速さの比

② 式と前提

 配座変換が速い → 75:25 が保たれる

③ 代入

 X の割合

13:87

④ 意味配座の割合 75:25 をそのまま生成物比にすると誤る

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演習 A の答え(3)

配座 C が %、D が % で、それぞれから X・Y だけが不可逆にできる。D からの速度定数は C からの 倍

問 3 配座変換の速度定数が C → D で 、D → C で s⁻¹ に下がった。反応の速度定数は C から 、D から s⁻¹ のままとする。このとき X:Y は、問 2 の値と初めの配座比 75:25 のどちらに近づきますか

① 求めるものX:Y が近づく値

② 図を読む の点は、反応の 2 点より右

 C から補われる前に、D が反応し終わる

初めの配座比 75:25 に近づく

要点:生成物比は、配座変換が反応より速ければ遷移状態の の差、遅ければ初めの配座比で決まる

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研究の実例不斉水素化の主生成物は、どちらの付加体から出るか 小テストの範囲外

例題と同じ形の、実際の反応

J. Halpern, Science 1982, 217, 401(DOI: 10.1126/science.217.4558.401);C. R. Landis, J. Halpern, JACS 1987, 109, 1746(DOI: 10.1021/ja00240a025);T. Imamoto, IntechOpen 2012(DOI: 10.5772/48584)

  • 溶液でほぼ一方しか見えない付加体の、少ないほうから主生成物( %)が出る
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配座 B の割合を増やすか、遷移状態を下げるか 教科書 §4.7

比は遷移状態の の差で決まる。これを、改変の選び方に使う

  • 比が変わるのは、二つの遷移状態の の差が変わったときだけ
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演習 B:Q を増やす改変案

例題のモデルで、Q を増やす二つの案を比べる
案 1:配座 B の だけを kJ/mol 下げる(TSB は同じ)
案 2:TSB の だけを kJ/mol 下げる

例題:配座 A が %、B が %、B からの速度定数は A の 倍(Q/P = 11)
kJ/mol、

  1. 案 1 で、配座 B の割合は何 % になりますか
  2. 案 1 で、Q/P は変わりますか
  3. 案 2 で、Q の割合は何 % になりますか

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演習 B の答え(1)

例題のモデルで、Q を増やす二つの案を比べる。案 1:配座 B の だけを kJ/mol 下げる(TSB は同じ)。案 2:TSB の だけを kJ/mol 下げる

存在比 が 3 倍 → 10 % と 30 % のあいだ

問 1 案 1 で、配座 B の割合は何 % になりますか

① 求めるもの案 1 のあとの

② 式と前提

 B の が 2.7 kJ/mol 下がる → 倍

③ 代入

 

25 %(10 % から増える)

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演習 B の答え(2)

例題のモデルで、Q を増やす二つの案を比べる。案 1:配座 B の だけを kJ/mol 下げる(TSB は同じ)。案 2:TSB の だけを kJ/mol 下げる

問 2 案 1 で、Q/P は変わりますか

① 求めるもの案 1 のあとの Q/P

② 式と前提Q/P = 存在比 × 速度定数の比

③ 代入存在比 は 3 倍(問 1)

 B からの障壁が 2.7 kJ/mol 上がる → は 1/3

 Q/P は 倍

変わらない(Q/P = 11 のまま)

④ 意味TSB の が同じなので、遷移状態の の差も同じ

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演習 B の答え(3)

例題のモデルで、Q を増やす二つの案を比べる。案 1:配座 B の だけを kJ/mol 下げる(TSB は同じ)。案 2:TSB の だけを kJ/mol 下げる

Q/P が 3 倍 → P は例題の 8 % の約 1/3

問 3 案 2 で、Q の割合は何 % になりますか

① 求めるもの案 2 のあとの Q/P と Q の割合

② 式と前提Q/P =

 TSB だけ −2.7 kJ/mol → が 3 倍、存在比は同じ

③ 代入

 Q の割合

約 97 %

要点:生成物比を変えるのは、二つの遷移状態の の差を変える改変

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問い 1 の答え生成物の量は、遷移状態の の差で決まるから

問い 1:安定な生成物が最も多くできるとは限らないのはなぜか

  • 予想の答えは 3(Q)。B が % でも Q が %
  • 生成物が戻らず配座変換が速いなら、比を決めるのは生成物の でも配座の多さでもない
  • 配座変換が遅いと、初めの配座比に近づく
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まとめ:問い 1 への答え

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教科書で読む範囲 教科書 第 4 章

節 内容
§4.1 平衡支配に切り替わる時間の見積もり(逆反応の速度定数と反応時間)
§4.2 の発展の箱 遷移状態理論の導き方、透過係数が 1 でない場合
§4.3 温度と選択性( と )
§4.4 の発展の箱 カーティン・ハメットの定義(IUPAC)と、名前の由来
§4.5 の発展の箱 配座変換が遅いときの連立速度式の解き方
§4.5 の小見出し 配座変換の速さだけを変えたときの、生成物の割合の曲線
§4.6 の小見出し どこまでのずれを許すか(障壁と P の割合)

この表の内容は読んでおくとよいが、小テストには出さない(小テストはスライドの本編から出す)

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次回予告:第 5 回 振動・零点エネルギー・同位体効果 教科書 第 5 章

の図(模式)

次回の問い

H を D に替えると
なぜ速度が変わるか

  • 今日の続き:速度定数は障壁(出発状態と遷移状態の の差)で決まった。H を D に替えると、どちらの が変わるか

今日の復習 演習 A・B、小テスト第 4 回 次回の予習 教科書 §5.1〜5.2

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発展:時間があれば・自習用

授業では扱わないことがあるスライド。小テストの範囲外

  1. モデルの前提と適用条件
  2. 配座変換が遅いときの、連立速度式
  3. 温度を下げると、選択性は必ず上がるか
教科書 第 4 章
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モデルの前提と適用条件 教科書 第 4 章 モデルの前提と適用条件

前提 崩れると 確かめる方法
配座変換が反応より速い 初めの配座比に近づく
(連立速度式を解く)
配座変換の速さを測り
(温度を変えた NMR など)、
反応の速さと比べる
生成物は不可逆にでき、
行き来しない
平衡支配に移り、
生成物の安定さで決まる
時間を変えて生成物比を測る。
生成物を反応条件に戻す
各配座から一つの生成物だけ
(単純化したモデル)
一つの配座から複数の経路があると、
その経路も足し合わせる
経路ごとの遷移状態を比べる
を温度によらないとみる
()
冷やしても選択性が
上がるとは限らず、
逆転もある(発展 3 の例で 400 K)
温度を変えて測り、
と を分ける
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配座変換が遅いときの、連立速度式 教科書 §4.5 の発展

各配座の量を時間で積分したもの ・ A → B・B → A の速度定数(例題のモデルでは )  初めの割合
反応が終わったときの P・Q の割合:、()

配座変換 a(A → B)10⁴ s⁻¹

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温度を下げると、選択性は必ず上がるか 教科書 §4.3

学部のルール「低温ほど選択性が上がる」を、比 で確かめる

温度 T298 K

  • 例:Q の経路の遷移状態は、P の経路よりエンタルピーが kJ/mol 低く、エントロピーが J/(K·mol) 小さい(どちらも温度によらないとする)
  • 必ずではない。 K(P が多い)から K へ冷やすと偏りが消えて 1:1。さらに冷やすと Q に偏る
教科書 第 4 章

時間: 0.5 分 時間が足りなければ:省く順は ① 演習 A の問 1 ② 演習 B の問 1 ③ 安定な生成物と速くできる生成物のスライドを 2 分に ④ 研究の実例を 1 分に。

時間: 2.5 分 問いかけ:ノートを見ずに、と言ってから 1.5 分考えさせ、答えを口頭で言う。 言うこと:1 は、平衡は比べる両側の G の差で決まる。同じだけ下がれば比は同じ。生成物側が多く下がれば、生成物が増える。 言うこと:2 は、ボルンの式は比誘電率と半径だけで決まり、比誘電率が 20 を超えるとほぼ一定。違いは隣の溶媒との水素結合で、プロトン性溶媒は小さな陰イオンに強く効く。 言うこと:今日も「何と何を比べるか」を見る。比べる相手は、今日は遷移状態どうし。

時間: 3 分 見せ方:下の絵を指す。印 1 つが分子 1 個で、丸が A、四角が B。反応が終わったとき、P と Q は何個ずつになるか。 問いかけ:三択から予想を心の中で選ばせる(書かせない・集めない)。答え合わせは「問い 1 の答え」のスライドで、ここでは答えを言わない。 言うこと:選択肢の理由:1 は「安定で、多い配座 A から出る」、2 は「存在比と速さが打ち消す」、3 は「少ない B から速く出る」。 言うこと:有機化学では「最も安定な配座から反応する」「安定な生成物が主になる」と考えがち。今日は、生成物の量が何で決まるかを遷移状態の G で整理する。

時間: 0.5 分 見せ方:上の帯を指す。第 II 部(核と電子の移動から反応へ)の 1 回目。 言うこと:第 1 回の障壁(出発する状態から測る、5.7 kJ/mol で 10 倍)と、第 2 回の存在比(ボルツマン分布)を合わせて使う。

時間: 2.5 分 見せ方:二つの障壁は、どちらも出発物から測る。 言うこと:学部の復習なので短く。平衡支配は熱力学支配ともいう。 言うこと:速度支配では、生成物の比に生成物の G は入らない。以下、生成物ができたら戻らない場合を考える。 言うこと:平衡支配に切り替わる条件(逆反応の速さ、反応時間、温度)は教科書で読む。 言うこと:ハモンドの仮説を聞かれたら、似た反応の系列では、生成物が安定なほど遷移状態も下がることが多い、という経験則。それでも比を決めるのは遷移状態の G。 時間が足りなければ:2 分に(図の二つの障壁と、太字の語だけ)。

時間: 2.5 分 見せ方:左の図で、ΔG‡ が大きいほど遅いことを先に見せ、その傾向を式で書く、と言う。 言うこと:学部ではアレニウスの Eₐ で「障壁」を習うので、Eₐ・ΔH‡・ΔG‡ を同じものとして使いがち。Eₐ と ΔH‡ は RT(298 K で 2.48 kJ/mol)しか違わない(溶液中の一段階の反応で Eₐ = ΔH‡ + RT)。 言うこと:前因子 k_BT/h は反応によらず、298 K で 6.2×10¹² s⁻¹。透過係数は、遷移状態から生成物側へ進む割合。 言うこと:聞かれたら、アレニウスの A には exp(ΔS‡/R) が入る。二分子反応では ΔG‡ が標準濃度の取り方で変わる(教科書 §4.2)。

時間: 2 分 言うこと:学部の復習。割ると、前因子(二つの経路で同じ)が打ち消し合い、障壁の差だけが残る。 つまずき所:アレニウスの A が同じ、という意味ではない。ΔS‡ の差は ΔΔG‡ に入る。 見せ方:図は第 1 回の目盛り。11.4 で 100 倍、17.1 で 1000 倍。 言うこと:温度を下げれば選択性は必ず上がるとは限らない。例は発展で。

時間: 2.5 分 見せ方:左はニューマン投影。奥の炭素を回すと A と B が入れ替わる(単結合の回転)。A から P、B から Q という対応はモデルの仮定で、構造から導いたものではない。 見せ方:矢印の太さが生成の速さ。代入は例題でする。真ん中の青い矢印で、B が反応で減っても A から補われることを指す。 問いかけ:「少ない B から速く出る Q と、多い A から遅く出る P、比はいくつか」と聞いて例題へ。 言うこと:p は各配座の割合(第 2 回のボルツマン分布)。二つの割合の比 p_B/p_A を存在比と呼ぶ。 言うこと:この前提が崩れる場合は、あとで見る。

時間: 4.5 分 問いかけ:解き方を 1 段ずつ開く。開く前に「何と何を比べる?」「どの式?」と聞いてから開く。 言うこと:概算の箱:計算の前に、B は A の 1/9 でも速度定数が 100 倍なので、Q のほうが多そうだと見込む。 見せ方:右は問いの図(反応の後が ?)。答えの段で分子 100 個の絵に替わる。 言うこと:k_P = 1 とおいた相対値で比だけを使う。P 8.26 %、Q 91.74 %。G の図は次のスライドで見る。 つまずき所:(a) 90:10(配座の存在比をそのまま生成物比にする)(d) 1:99(速度定数の比 100 倍だけを見る)(b) 50:50(打ち消すと考える)。 言うこと:前提:出発物質は一方の絶対配置にそろい、反応中にラセミ化しない。A から P だけ、B から Q だけ(単純化したモデル)。生成物どうしは行き来しない。還元剤の濃度の効果は両経路で同じ(擬一次速度定数として比べる)。

時間: 4 分 見せ方:初めは例題の値(B 5.4、TS_B 67)。298 K、A を基準 0、TS_A は 73 で固定。高さは k_P = 1、k_Q = 100 s⁻¹ から、前の基礎の確認の式で出した値(k = 1 → 73.0、k = 100 → 61.6)。 見せ方:操作 1「B の G」を動かす:割合は変わるが、B からの障壁が同じだけ変わり、Q は 92 % のまま。操作 2「元に戻す」を押して「TS_B」を動かす:Q が変わる。 言うこと:p_B/p_A = e^(−5.4/RT) = 0.11、k_Q/k_P = e^(11.4/RT) = 100(障壁 73 と 61.6)、積は 11 で、e^(6.0/RT) と同じ。 つまずき所:共通の基準から測る遷移状態の高さと、各配座から測る障壁を取り違える。第 1 回の「障壁は出発する状態から測る」の続き。 見せ方:つまみを触ったあと → で進めるときは、図の外を一度クリックする。

時間: 4 分 見せ方:左は G の曲線(模式)の上の分子 100 個(青が配座 A・B、橙が生成物 P・Q)。右は反応していない配座の A:B、できた生成物の比 P:Q、1/a と 1/k の比べ。 見せ方:操作 1「配座変換が速いとき」が選ばれた状態で、A と B のあいだを点が絶えず跳び移ることを指す。操作 2「▶」(約 6 秒):B が Q になるたびに A から補われ、A:B は 90:10 のまま。P 8 %、Q 92 %。操作 3「配座変換が遅いとき」を押す。操作 4「▶」(約 8 秒):B の 10 個だけがすぐ Q になり、残った A がゆっくり P になる。P 90 %、Q 10 %。 言うこと:比べ方は一つ。数直線で、1/a の点が反応の 2 点(1/k_Q と 1/k_P)より左か右か。左なら遷移状態の G の差、右なら初めの配座比。あいだにあるときは連立速度式を解く(発展)。 言うこと:モデルは例題と同じ。k_P = 1、k_Q = 100 s⁻¹、B → A は 9a。1/a は速いほうで 0.1 ms、遅いほうで 1000 s ≈ 17 分。 言うこと:点の往復は見やすく遅くしてある。実際は 1 秒に 1 万回入れ替わる。曲線は模式で、時間は対数で進む。 見せ方:「時間」のつまみで t を手で動かせる。つまみにフォーカスがあると矢印キーはつまみを動かす。進めるときは図の外をクリックしてから。

時間: 2 分 見せ方:障壁のボタンを 15 → 60 → 80 → 100 と押す。回す間隔は見せるための値で、実際の時間の比ではない。 言うこと:15 で約 70 ps(第 1 回)、60 で 5 ms、80 で 17 s、100 kJ/mol で 15 時間(目安で、実在の分子の値ではない)。p.10 の障壁 73 と 61.6 は、同じ目盛りで 1 s と 10 ms に当たる。 言うこと:回転が妨げられる例:かさ高い置換基をもつ結合、部分的な二重結合性のある結合など。 言うこと:例題の還元なら、比べる相手は速いほうの 1/k_Q = 10 ms。障壁がおよそ 60 kJ/mol より低ければ、カーティン・ハメットの原理の値にほぼ一致する(障壁 55 で P 8.3 %、60 で 8.7 %、70 で 26 %)。

時間: 6 分 見せ方:個人で 6 分 → 答えのスライド。右の図は考えるための問いの図(上:生成の速さの棒と X・Y の割合、下:反応と配座変換の時間の数直線)。「上の棒の ? を埋める」「下の図で、橙(反応)と墨(配座変換)のどちらが先に終わるか」と言ってから解かせる。解いている間、講師は前で待ち、決めた時刻に全体へ一言かける(教室は回らない)。 見せ方:問 3 には選んで判定するボタンがある(投影の HTML でだけ出る)。解く時間が終わってから、手を挙げさせた答えを押して見せ、答えのスライドへ進む。 言うこと:1 は入り口(第 2 回の存在比の逆算)。2 は例題の数値替え。3 は配座変換が遅いとき。 時間が足りなければ:1 を削る。

時間: 1 分 見せ方:答えを 1 段ずつ開く(この問には図を置かない)。 言うこと:概算の箱:計算の前に、ln 3 は 1 より少し大きいので、答えは RT より少し大きいと見込む。

時間: 1.5 分 見せ方:右の列は動く式。答えで、図が棒 0.75 と 5 と X 13:Y 87 の入った完成版に替わる。少ない D からの棒のほうが長いことを指す。 言うこと:k_X = 1 とおいた相対値(k_Y は 20)。 つまずき所:75:25 と答える。例題の ③ に戻る。

時間: 2 分 見せ方:右の図は時間の数直線(対数)。反応 1/k は D 0.05 s・C 1 s(橙)、配座変換 1/a は C→D 100 s・D→C 33 s(墨)。② で「墨の点が橙より右 → 反応が先に終わる」と図の上で指す。答えのあと → で、X 74:Y 26 の入った図に替わる。「配座変換が遅いと、どうなるか」のスライドと同じ読み方。 つまずき所:「配座の割合は同じだから問 2 と同じ」と答える。前提は割合ではなく、反応のあいだに分布が保たれるかどうか、と言う。 言うこと:図の 74:26 は連立速度式の解(発展)。75:25 からのずれは、反応のあいだに少しだけ配座変換が起こる分。

時間: 1.5 分 言うこと:今日の例題(少ない配座から主生成物)と同じ構図の、有名な実例。 見せ方:左の基質 MAC と生成物の構造を指す(Rh–DIPAMP 触媒で 96 % ee、98:2)。付加体は、基質が C=C の表か裏を Rh に向けて配位した 2 つの錯体。二つは速く入れ替わるので、生成物の比は存在比でなく二つの遷移状態の G の差で決まる。 言うこと:H₂ の圧力を上げるか冷やすと、付加体の入れ替わりが反応に追いつかず、選択性が下がる。「配座変換が遅いとき」の例。 言うこと:聞かれたら、付加体の比を仮に 1:10 とすると、生成物比 98:2 = 49 倍なので、少ないほうの速度定数は 49 × 10 ≈ 490 倍。 言うこと:MAC はアセトアミド桂皮酸メチル(基質)、DIPAMP はキラルなリン配位子。この描像は配位子によっては当てはまらないので、この系に限ると言う。

時間: 2.5 分 見せ方:左:置換基などで配座 B の G だけを下げる(その相互作用は TS_B では失われる)。B の割合は増えるが、B からの障壁が同じだけ高くなり、Q は 92 % のまま。 見せ方:中:配座 B も TS_B も下げる(相互作用が遷移状態にも残る)。TS_B が下がるので Q が増える。 見せ方:右:TS_B だけを下げる(遷移状態だけで効く相互作用、触媒など)。Q が増える。 言うこと:Q の棒は、TS_B を 1.7 kJ/mol 下げたときの値(Q/P が 11 から 22、Q 96 %)。Q を増やすには TS_B を TS_A に対して下げる。 言うこと:配座変換が速いとき、配座 B の割合を増やすことそのものでは生成物比は変わらない。

時間: 7 分 見せ方:個人で 7 分 → 答えのスライド。右の図は考えるための問いの図(上:案 1、下:案 2。灰の破線が変える前)。「上の B の割合と Q/P、下の Q/P と Q の割合の ? を考える」と言ってから解かせる。 見せ方:問 2 には選んで判定するボタンがある(投影の HTML でだけ出る)。解く時間が終わってから押して見せる。 言うこと:1 は入り口。2 は今日の中心。3 は遷移状態を下げたときの計算。 時間が足りなければ:1 を削る。

時間: 1 分 見せ方:右の列は動く式。答えで、図が B 10 → 25 % の入った図に替わる(Q/P はまだ ?)。 言うこと:概算の箱:p_B/p_A が 3 倍でも、全体で割り直すので割合は 3 倍(30 %)より少し小さい。

時間: 1.5 分 見せ方:③ の 2 行目で「B から TS_B までの矢印が 2.7 長くなる」と図の上で指す。答えのあと → で、Q/P は 11 のままが入った図に替わる。高さは模式。 問いかけ:③ の 2 行目の前に「B は増えるが、B からの障壁はどうなる?」と聞く。 つまずき所:「B が増えたので Q も増える」と答える。

時間: 1.5 分 見せ方:右の列は動く式。答えで図が Q/P 11 → 33(Q 97 %)の入った完成版に替わる。前のスライドの図と並べて「動いたのは配座の G か遷移状態か」を指す。 言うこと:概算の箱:Q/P が 3 倍なら、P は例題の 8 % の約 1/3(3 % 前後)。 言うこと:案 1 と案 2 は、どちらも 2.7 kJ/mol 下げる改変だが、どこの G を下げるかで結果が違う。第 3 回の「どちらの側を下げるか」と同じ考え方。

時間: 2 分 言うこと:冒頭の予想の答え合わせ。1(P)を選んだ人が多ければ「配座の存在比をそのまま生成物比にした」と言う。 言うこと:答えの文:生成物の量は、生成物の安定さや配座の多さではなく、共通の基準から測った遷移状態の G の差で決まる(不可逆で、配座変換が反応より速いとき)。 言うこと:第 8 回(触媒)では、触媒が結合した状態の分布と、そこからの速さを同じように合わせる。

時間: 2 分 見せ方:左から順に話す。出発する状態が一つなら、比は二つの遷移状態の G の差。障壁は出発する状態から、遷移状態の高さは共通の基準から測る。配座が二つでも、配座変換が速ければ同じ。遅ければ初めの配座比に近づく。生成物比を変えるには遷移状態の G を変える。

時間: 1 分 言うこと:表の節と発展の箱は、自習で読む所。

時間: 1 分 言うこと:次回は、同位体で置き換えても電子状態(ポテンシャルエネルギー曲線の形)は変わらないこと、変わるのは核の質量と振動数・零点エネルギーであることを見る。

言うこと:表はまとめ直し。3 行目:実在の α-アミノケトンは、各配座から複数の攻撃経路をもちうる。

言うこと:A ⇌ B、A → P、B → Q の速度式 dA/dt = −(a + k_P)A + bB、dB/dt = aA − (b + k_Q)B を t = 0 から ∞ まで積分すると、上の 2 本の一次方程式になる。 言うこと:a ≫ k のとき I_B/I_A → a/b(平衡比)となり、P:Q = p_A k_P:p_B k_Q に戻る。a → 0 のとき x_P = p_A^0(初めの配座比)。 言うこと:例題のモデルで a = 10⁴ で P 8.26 %、10² で 9.0 %、10 で 15.1 %、1 で 47 %、10⁻¹ で 82.0 %、10⁻³ で 89.9 %。 見せ方:つまみ・ボタンを触ったあと → で進めるときは、図の外を一度クリックする。

言うこと:ΔΔG‡ = ΔΔH‡ − TΔΔS‡ は第 2 回の ΔG = ΔH − TΔS と同じ形。選択性は偏りの大きさ(Q/P が 1 から離れるほど高い)。「低温ほど選択性が上がる」は、ΔΔS‡ = 0 とみたときの学部のルール。 見せ方:左は ln(k_Q/k_P) を 1/T に対して描いた直線(傾き −ΔΔH‡/R、切片 ΔΔS‡/R)、薄い破線は ΔΔS‡ = 0 とみた線。右は ΔΔH‡(灰、−8.0 で一定)の端から −TΔΔS‡(緑、温度に比例)を積んだ棒と、和 ΔΔG‡(墨の枠)。 見せ方:298 K:−TΔΔS‡ は +6.0、ΔΔG‡ は −2.0 で、Q/P は 2.3(破線なら 25)。200 K:ΔΔG‡ −4.0 で 11。400 K:1:1。500 K:ΔΔG‡ +2.0 で 0.62(P が多い)。 見せ方:つまみを触ったあと → で進めるときは、図の外を一度クリックする。