量子論と波動関数

量子化学1 第 1 回 | 教科書 第 1 章

花火の色は、なぜ元素ごとに決まっているのか

量子化学1 第 1 回 量子論と波動関数

問い 1:花火の色は、なぜ元素ごとに決まっているのか

金属塩のメタノール溶液の炎。左から Li・Sr・Ca・Na・Ba・B(ホウ酸トリメチル)・Cu・Cs・K

写真: Hegelrast, "Coloured flames of methanol solutions of metal salts and compounds", Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

  • 赤はストロンチウム、緑はバリウム、黄はナトリウム。いつどこで燃やしても同じ色

予想を 1 行で書いてください:原子の中で何が決まっているから、色が決まるのか

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高校化学で覚えた規則と、その理由

高校で覚えたこと なぜそうなるのか 扱う回
炎色反応の色は元素で決まる なぜ決まった色の光だけが出るのか 第 1〜3 回
電子殻の定員は 2・8・18 なぜこの数なのか 第 3〜4 回
酸素分子の構造式は O=O なぜ液体酸素は磁石につくのか 第 9 回
ベンゼンは付加より置換を起こしやすい なぜ二重結合が 3 本でも安定なのか 量子化学2 第 02 回
ニンジンは橙色、トマトは赤色 なぜ分子によって色が違うのか 第 2 回
量子化学2 第 04 回

左:磁石に留まる液体酸素(第 9 回)
右:ニンジンの橙色(第 2 回ほか)

  • 高校では、どれも結果として覚えた
  • 五つとも、電子を波として扱うと説明がつく

写真: Bob Burk, "Liquid oxygen in a magnet 2", CC BY 3.0。congerdesign, "Fresh orange carrots", CC0(いずれも Wikimedia Commons)

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科目ガイダンス(1):到達目標と成績評価

  1. シュレディンガー方程式の記号の意味を言える
  2. 電子の広がりを波動関数と確率密度で表せる
  3. 原子軌道(s・p・d)の形と意味を説明できる
  4. 電子配置と周期律の理由を説明できる
  5. 結合の成り立ちを軌道の重なりで説明できる
  6. 共役分子の準位を手計算で求められる
評価項目 実施時期 配点
中間(概念理解) 第 7 回 35 %
期末(数理スキル) 第 13 回 35 %
小テスト(manaba) 毎回 30 %
  • マークシート四択、60 分、部分点なし
  • 関数電卓可(通信機能付きは不可)。教科書・ノート不可。定数・式は問題に記載
  • 試験は、授業で扱った内容を中心に出題する
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科目ガイダンス(2):小テストと復習の手引き

小テスト(manaba) 運用
回答期間 授業終了の 17:30 から、翌週の 16:00 まで
受け方 教科書可・相談可。何度でも受験可、最高点を採用。8 問が受けるたびに変わる
結果の表示 提出時は合計点のみ。問ごとの正誤と解説は、締切後の復習用ドリル(成績外)で
配点 成績の 30 %(全 11 回、均等)。各問に付く教科書の節を読み直して満点に
質問・コメント 疑問・要望を manaba のアンケートへ(任意・成績外)。次回の冒頭で答える
  • 復習の手引き(PDF)を中間の 2 週間前(第 5 回)と期末の 2 週間前(第 11 回)に manaba で配る
  • 数学 三角関数・微分・複素数・行列の初歩。必要な回の予習で、付録 A の項目を指定する
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今日の流れ 教科書 §1.1〜1.3 前半

説明 答える問い 演習
1 線スペクトル、準位、光子 問い 1(花火の色) A:光子のエネルギーを計算する
2 電子は波である 問い 2 の前提 B:電子の波長を計算する
3 波動関数 と 問い 2(電子の波は何を表すか) C: と
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花火の光を分けてみる 教科書 §1.1

光をプリズムで波長ごとに分けたときの見え方。(a) 白熱電球、(b) ナトリウムの炎、(c) 水素の放電管。数字は波長(nm)

  • 白熱電球は切れ目のない虹。ナトリウムの炎は黄色の線 1 本、水素は 4 本の線だけ
  • 元素ごとに色が決まっているとは、出てくる光の波長が決まっているということ
  • いちばん単純な原子は、電子が 1 個の水素。まず、この 4 本の線の意味を考える
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4 本の線と、電子のエネルギーの対応

  • 横線の高さが、原子の中の電子のエネルギー。意味があるのは縦の高さだけ
  • 炎の熱や放電で、電子は上の線へ上がる(励起)
  • 下へ落ちるとき、高さの差のエネルギーを光として出す(青の矢印)
  • 4 本だけ → 高さの差が決まった値だけ
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線スペクトルから分かること

  • 電子のエネルギーは、とびとびの値(準位)しかとれない。前の図の横線の 1 本 1 本が準位
  • 準位のあいだを移るとき、差のエネルギーの光を出す(下へ)・吸う(上へ)

プランク定数  振動数

準位の差 が、出入りする光の振動数 を決める。

  • 準位の番号 は、高校の電子殻にあたる(1 が K 殻、2 が L 殻、3 が M 殻)

次回の問い:なぜ準位はとびとびか(第 2 回で答える)

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光電効果:光が波なら、どうなるはずか 教科書 §1.1

前提 光は波(干渉の縞:ヤングの実験)。波が運ぶエネルギーは明るさ(振幅)で決まる

試したこと 光が波なら(予想) 実験の結果
光を強くする 電子 1 個のエネルギーが増える 変わらない(増えるのは電子の数)
振動数の低い光を、強く当てる いずれ電子が出る どれだけ強くしても出ない
振動数を上げる 関係ないはず 電子 1 個のエネルギーが増える

波の考えでは説明できない。光のエネルギーは、どう受け渡されているのか

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答え:光のエネルギーは の「かたまり」(光子)で届く

破線:波の予想 実線:実験。縦軸は電子 1 個のエネルギー、横軸は (a) 光の強さ 、(b) 振動数

① ためられない (b) 振動数が低いと、強く・長く当てても 0 → 一度に受け取る量で決まる

② その量は振動数で決まる (b) 右上がり、(a) 強さでは横ばい → かたまり 1 個 =

③ 強さ = かたまりの数 強くすると増えるのは電子の数 → 数えられるかたまり = 粒(光子)

  • 光は波でもあり、粒でもある:干渉は波、光電効果は粒の性質
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例題:光子のエネルギーを、化学で使う単位に直す

光の速さ  波長

(波の速さ = 波長 × 振動数)で振動数を波長に直した形。

① eV に直す  に緑の光(500 nm)を入れる → (光子 1 個)

② 1 mol あたり  →

③ 化学と比べる 結合エネルギーと比べる → Cl–Cl 結合のエネルギー(約 240 kJ/mol)と同じ

① は nm の数のまま入れる ② mol あたりは eV の値 × 96.5(アボガドロ数倍)

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光子のエネルギーの物差し:化学結合と比べる

光子 1 個のエネルギー(下:eV、上:kJ/mol)。帯は光の波長域(赤外・可視・紫外)、橙の破線は化学結合 1 本を切るエネルギー

  • 可視光の光子 1 個は、化学結合 1 本と同じ桁(500 nm ≈ Cl–Cl)→ 塩素に光を当てると反応が始まる。紫外線は C–C も切れる
  • 原子の準位の差 も、この物差しの上の光子 1 個 として出入りする

注意:「とびとび」は二つある。白熱電球の虹も光子でできている(光子のエネルギーが帯のように連続に並ぶ)。水素が線になるのは、原子の準位がとびとびだから

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演習 A:光子のエネルギー

  1. 赤い光をどれだけ強く当てても電子が出ない金属がある。紫外線なら弱くても電子が出る。理由を「光子」の語を使って一言で
  2. ナトリウムの黄色の光(589 nm)の光子 1 個のエネルギーを eV で、1 mol あたりを kJ/mol で求めてください
  3. 最初に書いた予想を見直し、問い 1(花火の色は、なぜ元素ごとに決まっているのか)に「準位」の語を使って答えてください
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演習 A の答え

1 光子 1 個のエネルギー は振動数だけで決まる。強くすると増えるのは光子の数 → 赤い光の光子は 1 個では電子を引き出せず、数を増やしても(強くしても)足りない

2 ① 光子 1 個  2.1 eV

2 ② 1 mol あたり × 96.5: 200 kJ/mol

3 準位の差 = 光子のエネルギー 。元素ごとに準位の並びが違う → 準位の差 が決まる → 出る光の色が決まる

要点:光はエネルギー の粒。原子の中の電子のエネルギーは、とびとびの準位

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電子も波である:ド・ブロイの物質波 教科書 §1.2

仮説(ド・ブロイ、1924)光は波なのに粒でもあった。それなら、粒の電子も波ではないか

ド・ブロイ波長  運動量  質量  速さ
運動エネルギーは運動量で書ける:( を代入)

運動量 の大きい粒子(左)ほど波長は短く、粒に見える。軽い電子(右)は原子ほどの波長

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証拠:電子でも、回折の縞が現れた 教科書 §1.2

金箔に電子線を当てて撮った写真。中心はまっすぐ通り抜けた電子、まわりの同心円の縞は、小さな結晶で回折した電子

写真: J.-J. Trillat, "Diffraction of electrons on microcrystallitic crystals or powders; beaten gold", Wellcome Collection, CC BY 4.0(Wikimedia Commons)

  • X 線(光)を結晶に当てたときと同じ縞 → 電子は波として進む(1927)。ド・ブロイの仮説は正しかった
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例題:電子のド・ブロイ波長

設定 電圧 で加速した電子の波長は?(、)

① 電子のエネルギー :100 V で加速 → 100 eV

② 運動量  から に代入する

③ 波長 

① ボルトで加速 → eV(J は × ) ② 指数は電卓の EXP キーで入れる

  • 原子の大きさ(約 0.1 nm)と同じ → 原子の中の電子は、波として扱わないと説明できない
  • 時速 150 km の野球ボールなら 。小さすぎて波は現れない
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演習 B:電子の波長

  1. 400 V で加速した電子について、空欄を埋めてください
    ① エネルギー = __ eV ② = __ kg·m/s ③ = __ nm
  2. 例題(100 V、0.12 nm)と比べて、波長は何倍になりましたか。その理由を、 と の関係から一言で説明してください
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演習 B の答え

1 ① エネルギー  ボルトで加速 → eV → 400 eV

1 ② 運動量  kg·m/s

1 ③ 波長  0.061 nm

2  は に比例する。 を 4 倍にすると は 2 倍 → は 1/2 倍

要点:電子の波長は原子の大きさと同じ 0.1 nm 程度。電子は波として扱う

問い 2:電子が波なら、その波は何を表すのか

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電子の波を関数で表す:波動関数 教科書 §1.3

弦の定在波(高校物理)は、位置 ごとの揺れ で表せる。電子の波も、位置 の関数 で表す → 波動関数

両端を固定した範囲の定在波()。(a) 弦の揺れ(灰の破線は半周期後の形)、(b) 電子の波動関数

  • は正(青)にも負(橙)にもなる。弦が上下に振れるのと同じ
  • 何が揺れているのか:弦と違い、目に見える物ではない。測れるのは
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は何を表すか:電子密度と確率密度

上:(前の枚と同じ形)。下:。帯の面積 が、そこに電子を見つける確率

二乗すると符号が消え、 はどこでも正(節では 0)

見方 の意味
化学 電子密度:電子の雲の濃さ
測定 確率密度:電子を見つける確率
  • 全空間で足すと 1(規格化):
  • そのものは確率ではない
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二重スリット:粒なら、波なら、どう写るはずか 教科書 §1.3

電子を 1 個ずつ打ち出し、届いた位置を記録する

100 個通したときの予想(スクリーンを正面から見た図)

  • (a) 粒なら:まっすぐ進み、二つのスリットの正面に 2 本の帯(点の集まり)
  • (b) 波なら:1 個ずつでも、縞の形に薄く広がって写る(点にならない)
  • 実際には、どちらが写るか
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結果:点として届き、縞に並ぶ

電子を 1 個ずつ二重スリットに通したときのスクリーン(模式)。点 1 つが電子 1 個。(d) は限りなく増やした極限と

  • 1 個ずつ、1 か所に点として届く → 粒の性質
  • 点が増えると縞に並ぶ → 波の性質
  • どちらの予想とも違う:電子は粒として見つかり、どこに見つかりやすいかが波で決まる
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なぜ が確率なのか:光で考える

波として見る 粒として見る
光 明るさ = 振幅の 2 乗 明るさ = 届く光子の数(光電効果)
電子 振幅 = 見つかる数 ∝

二つのスリットを通った波 (青)が重なる。右の曲線が縞の明るさ =

  • 電子 1 個が見つかる確率 ∝ (ボルンの規則)。導いた式ではなく、実験と合う約束
  • 暗い縞:二つのスリットの が打ち消し合う所。 を足してから二乗する
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電子雲の絵は、測った点の積み重ね

水素原子の電子の位置を測った記録。(a) 100 回、(b) 1000 回、(c) 回数を限りなく増やした極限。点 1 つが 1 回の測定

  • 1 回測ると、電子は 1 か所に点として見つかる(ちぎれて雲になっているのではない)
  • 何度も測った点の分布が雲の濃淡 = (電子密度)。高校の電子雲の絵は (c)
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演習 C: と

  1. 高校の教科書にある電子雲の絵は、 と のどちらを描いたものですか。波動関数の図で青と橙に塗り分けた正・負の違いは、電子雲の絵に残っていますか
  2. ある電子の の値が、位置 a で 、位置 b で 、位置 c で でした
    ① 電子が見つかりやすい順に並べてください(同じなら同じと書く) ② が負の b に、電子は見つかりますか
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演習 C の答え

1 電子雲の濃淡は電子密度 = 。符号は二乗で消える → 電子雲の絵は (電子密度)。青と橙は の符号で、絵には残らない

2 ① 見つかりやすさは :a は 、b は 、c は → a と b が同じで、c より見つかりやすい

2 ② b の → 見つかる。負なのは の符号だけ

要点:電子の見つかりやすさは (電子密度)。 の符号は二乗で消えるが、波が重なるときに効く

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まとめ:二つの問いへの答え

炎の写真: Hegelrast, "Coloured flames of methanol solutions of metal salts and compounds", Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0

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教科書で読む範囲 教科書 §1.4・1.5

解ける模型 → 軌道近似 → 変分・LCAO → ヒュッケル法と近似を重ね、第 II 部の HOMO–LUMO ギャップへつながる

  • §1.4 段階的な近似(この地図)と §1.5 R&D と計算化学は、授業では扱わない。各自で教科書を読む
教科書 第 1 章
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次回予告:第 2 回 閉じ込めと量子化:箱の中の粒子 教科書 第 2 章

核心 電子を閉じ込めると、なぜ準位がとびとびになるのか(今日の線スペクトルの問い)

  • 閉じ込めた波は跳ね返って重なり、定在波だけが残る
  • 電子の波を決めるシュレディンガー方程式 と、演算子・固有関数
  • 境界条件のもとで解いて を導く
  • 最低エネルギーが 0 にならない零点エネルギーと、不確定性原理

今日の復習 演習 A〜C を解き直す。小テスト第 1 回を受ける

次回の予習 三角関数・微分の基礎、とくに合成関数の微分(教科書 付録 A.1)。教科書 §1.3 の定在波の段落と後半、§2.1 に目を通す

教科書 第 1 章