閉じ込めと量子化:箱の中の粒子

量子化学1 第 2 回 | 教科書 §1.3 後半・第 2 章(§2.1〜2.2)

量子ドットは、なぜ小さいほど青いのか

量子化学1 第 2 回 閉じ込めと量子化:箱の中の粒子

前回を思い出す(ノートを見ずに)

  1. を全空間で足すと、いくつになりますか。それは何を意味しますか
  2. 電子のド・ブロイ波長 は、運動量 が大きいほど長くなりますか、短くなりますか

今日は近似の地図の ①「厳密に解ける模型」。前回の線スペクトルの問い「なぜ準位はとびとびか」に答える

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問い 1:量子ドットは、なぜ小さいほど青いのか

同じ材料の量子ドット溶液を紫外線で光らせたもの。発光の極大が 10 nm 刻みで左(小さい粒)から右(大きい粒)へ

写真: Antipoff, "Quantum Dots with emission maxima in a 10-nm step are being produced at PlasmaChem in a kg scale", Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0

  • 薄型テレビの色に使う数ナノメートルの半導体の粒。同じ材料なのに、小さいほど発光が青へずれる

予想を 1 行で書いてください:粒の大きさは、電子の何を変えているのか

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今日の流れ 教科書 §1.3 後半、§2.1〜2.2

問い 演習
1 前回の問い:なぜ準位はとびとびか A:固有関数の判定、残る定在波
2 問い 1:量子ドットは、なぜ小さいほど青いのか B:箱の中の電子のエネルギーと吸収波長
3 問い 2:最低のエネルギーは 0 にできるか C:零点エネルギー
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一次元の箱:量子ドットを、いちばん単純な模型にする 教科書 §2.1

(a) 量子ドットの粒と中の電子、(b) 中心を通る線 に沿った電子のエネルギー、(c) 一次元の箱

  • 粒の中は自由に動ける()。外へは出にくい → 壁を無限に高くする
  • 粒の大きさが、箱の長さ になる
  • この模型を箱の中の粒子と呼ぶ。中身は電子に限らない(質量 の粒子なら何でもよい)
  • 求めたいもの 箱の中の電子に許されるエネルギー と波動関数
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シュレディンガー方程式と、箱のハミルトニアン 教科書 §1.3

運動エネルギー位置エネルギー古典そのまま量子

は 2 回:()
 箱の中は

ハミルトニアン(演算子)
波動関数  エネルギー(固有値)

E. シュレディンガー。1926 年に発表

写真: Nobel Foundation (1933), Wikimedia Commons, Public domain

  • 置き換えるのは運動量 だけ(量子力学の約束)。二回微分は波の曲がり具合を測る
  • はかけ算ではない。定数倍になるだけの (固有関数)を探す
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固有関数と、そうでない関数:二回微分で練習する

箱の の主役は 二回微分(関数を 2 回続けて微分する)。まずこの操作だけで練習する

二回微分する操作 ( を二回微分した関数)  固有値(ただの数)

関数を 1 回ずつ微分していくアニメーション

1 回ずつ微分し、最後にもとの の 倍(破線)と比べる。(a) で にぴたりと重なる → 固有関数。(b) どの でも重ならない → 固有関数ではない

青の実線が 、橙の破線が 。(a)(b) は の定数倍( 倍、 倍)→ 固有関数。(c) 形が変わる → 固有関数ではない

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方程式を解く:サインとコサイン

箱の中()のシュレディンガー方程式 

① を入れてみる(二回微分すると 倍:前の枚の (a) と同じ)

② 右辺 と比べて 。 でも同じ →

③ を入れると :古典の運動エネルギーと同じ

波数() ・ 定数

① 中身の は微分 1 回ごとに前に出る: ② cos の微分は −sin(符号を落とさない)

  • 細かく振動する波( が大きい)ほど、運動エネルギーが大きい
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境界条件 ① 左の壁:cos は 0 にならない 教科書 §2.1

電子は壁の外に出られない → 壁で (弦の両端が動かないのと同じ)。これを「方程式を解く」の解 ( はまだ何でもよい)に当てはめる:境界条件

左の壁 で、 は 0(○)、 は 1(×)

  • が 0 →
  • 残るのは
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境界条件 ② 右の壁: になる だけが残る

波数を少しずつ大きくするアニメーション

上:。下:箱の中の波。右の壁で 0 に戻る所(青)だけが残る

は許され、 は右の壁で 0 に戻れない

  • 。 が 0 では電子がいないので、sin の部分が 0
  • sin が 0 になるのは の整数倍(上のグラフ)→
  • から (半波長の整数倍)
  • 合わない波は、壁で跳ね返ると自分と打ち消し合って消える → 残るのは定在波
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結果:整数 が出てきた

の出どころ 解くと ( は何でもよい)→ 壁の条件で だけ → 入れる

量子数(1, 2, 3, …)  質量  箱の長さ  プランク定数

(a) と (b) ()。点が節

  • 量子数 は仮定ではなく、境界条件から出た(前回の問い「なぜ準位はとびとびか」の答え)
  • の節(壁を除く)は 個。節の上では電子は見つからない
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閉じ込めた電子の定在波を、見る

銅の表面に、コバルト原子(とがった山)を 1 個ずつ並べて楕円の囲いを作り、走査トンネル顕微鏡で測った像。囲いの内側に、表面の電子の波紋が見える

写真: J. A. Stroscio, R. J. Celotta, S. R. Blankenship, F. M. Hess (NIST), "Co ellipse", Wikimedia Commons, Public domain

  • 囲いに閉じ込めた電子の波は、囲いの形に合った定在波になる
  • 波紋の濃淡は (前回の電子密度)
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演習 A:固有関数と、残る定在波

  1. 次の関数は、二回微分 の固有関数ですか。固有関数なら固有値も答えてください (a)  (b)
  2. 長さ の箱に閉じ込めた波について
    ① 残る波の波長を、長いほうから 3 つ答えてください ② 波長 0.96 nm の波は残りますか。理由を一言で
  3. 前回の問い(なぜ準位はとびとびか)に、「壁」と「半波長」の語を使って答えてください
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演習 A の答え

1 (a) :もとの 倍 → 固有関数、固有値

1 (b) :もとの定数倍ではない → 固有関数ではない

2 ①  から → で 2.4 nm、1.2 nm、0.80 nm

2 ② 半波長は 0.48 nm。(整数でない)→ 残らない

3 壁で → 半波長の整数倍の波だけが残る()→ 波長がとびとび → エネルギーもとびとび

要点:閉じ込めると、境界条件から整数 (量子数)が出る

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例題:箱の中の電子のエネルギーと吸収波長

設定 長さ の箱の電子(、)

① 最低の準位  に代入する

② の差 

③ 波長 (近赤外)

① J → eV は で割る ② 差は ( そのものではない)

  • 長さを変えたときは比で求められる:
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演習 B:箱の中の電子

  1. の波動関数 は、箱の内部にいくつ節をもちますか
  2. 長さ の箱の電子について、(eV)、 の (eV)、吸収する光の波長(nm)を求めてください。
    例題の値(1.0 nm で )から比で求めてもかまいません
  3. 最初に書いた予想を見直し、問い 1(量子ドットは、なぜ小さいほど青いのか)に「準位の間隔」の語を使って答えてください
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演習 B の答え

1 節の数 → 4 個

2 ① 最低の準位  から 0.77 eV

2 ② 差  2.3 eV

2 ③ 波長  540 nm(緑)

3 粒が小さい( が小さい)→ で準位の間隔が広い → 出る光子のエネルギーが大きい → 青へ

要点:。箱が小さいほど準位の間隔が広い

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問い 1 の答えを、箱を縮めて確かめる

箱の長さ L0.70 nm

つまみで箱の長さ を変える。縮めると準位の間隔が開き、 の光は赤 → 緑 → 青 → 紫へ

nm(演習 B の問 2)のとき。縮めるほど間隔が開き、光は青へ

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同じ式で、色素の色も説明できる

共役鎖を長さ の箱、鎖に沿って動ける電子を箱の中の粒子とみなす(自由電子模型)

シアニン色素の鎖(両端が N)。 は鎖に沿った原子の数、 は結合長

原子の数 7 9 11
箱の長さ 1.12 nm 1.40 nm 1.68 nm
箱の式が予測する吸収波長 460 nm 590 nm 720 nm
  • 鎖を伸ばすほど が大きく、間隔が狭まり、吸収は長波長へ(実測も約 100 nm 刻み)
  • 電子が多いので、光で移るのは上の準位どうし( なら )
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身近な色素:共役が長いほど、長い波長の光を吸う 教科書 §12.3

左:ニンジン(β-カロテン) 右:トマト(リコペン)

写真: congerdesign, "Fresh orange carrots", CC0。Wilfredor, "Tomatoes", CC0(いずれも Wikimedia Commons)

β-カロテン。青が共役した二重結合の連なり

色素 共役二重結合と吸う光 見える色
β-カロテン 11 本。450 nm 付近(青〜青緑) 橙
リコペン 11 本。末端が開き共役が長い → より長波長側 赤
  • 吸った光の補色が見える。緑の葉のクロロフィルも共役π系
  • 箱の式が与えるのは向き(長いほど長波長)。数値の計算は量子化学2 第 04・05 回
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問い 2:最低のエネルギーは 0 にできるか 教科書 §2.2

(a) なら :電子がどこにもいない (b) 最低は :箱に半波長が 1 つ入る (c) の準位は、底()から だけ上

零点エネルギー 閉じ込められた粒子の最低のエネルギー (0 ではない)

なぜ 0 にできないのか。粒子が止まっていれば、運動エネルギーは 0 のはず

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答え:止まった波は、箱に入らない

(a) 止まった波(平ら)は壁で 0 にできない (b) いちばんゆるやかな波 (c) 箱を半分にすると曲がりが強い

① 止まる  → が無限大 → 平らな波。壁で 0 にするとどこでも 0

② いちばんゆるやかな波 半波長 1 つ()でも曲がっている。

③ 狭く閉じ込めるほど、いちばんゆるやかな波でも強く曲がる → が大きい(不確定性原理:次の枚)

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不確定性原理:場所を狭く決めると、運動量がばらつく 教科書 §2.2

本数 N1
幅 Δp

上:重ねる波 中:和 下:使った波の運動量。(a) 1 本 (b) 3 本 (c) 15 本(幅が広い)

① 波長が一つ 運動量が一つの波は、どこまでも続く → 場所が決まらない

② 重ねる 波長の違う波を足す → 中央は山がそろって強め合い、外はずれて打ち消し合う → 塊

③ 狭い塊には 運動量の違う波を、広い範囲で混ぜる( 大)

  • 測り方の問題ではない。粒子を波で表す以上、必ずそうなる
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化学での意味:電子は、なぜ核に落ちないのか

水素原子の電子を、核から距離 の範囲に閉じ込めたときのエネルギー(見積もり)

  • 核に近づく( が小さい)ほど強く閉じ込められ、運動エネルギー が急に増える
  • 核の引力とつり合う谷の底: nm、 eV
  • 原子の大きさと水素の 13.6 eV(第 3 回)がほぼ出る → 電子は核に落ちない
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演習 C:零点エネルギー

  1. 「最低エネルギーの状態では、粒子は静止している」は正しいですか。理由を一言で
  2. 同じ長さの箱に、電子と、質量が電子の 4 倍の粒子を入れます。零点エネルギーは、どちらが何倍大きいですか。理由を から一言で
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演習 C の答え

1 止まる()なら波は平らで、壁で 0 にできない → いちばんゆるやかな波でも曲がっている → 正しくない(零点エネルギーが残る)

2 ① :質量 は分母にある

2 ② 質量が 4 倍なら は → 電子のほうが 4 倍大きい

要点:閉じ込められた粒子には零点エネルギーが残る。軽い粒子、狭い箱ほど大きい

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まとめ:三つの問いへの答え

量子ドットの写真: Antipoff, "Quantum Dots with emission maxima in a 10-nm step are being produced at PlasmaChem in a kg scale", Wikimedia Commons, CC BY-SA 3.0

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教科書で読む範囲 教科書 §2.1〜2.2

節 内容
§2.2.1(発展) 有限の壁をすり抜けるトンネル効果、走査トンネル顕微鏡
§2.1 後半 三次元の箱と縮重(縮重は第 3 回に、水素原子の 軌道で扱う)
  • 授業では扱わない。復習のときに教科書で読む。§2.3〜2.4(調和振動子と赤外吸収)は第 5 回
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次回予告:第 3 回 原子軌道と確率密度 教科書 第 3 章

核心 水素原子を解くと、三つの量子数 と s・p・d 軌道の形が出てくる

  • 極座標で と角度に分けて解く:
  • が軌道の形、 が向きを決める(形が同じで向きだけ違う 2p 軌道が 3 本)
  • をグラフにして、電子の存在確率を見る

今日の復習 演習 A〜C を解き直す。小テスト第 2 回を受ける

次回の予習 極座標 と、複素数の極形式 (教科書 付録 A.2)。教科書 §3.1 に目を通す

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