原子軌道と確率密度

量子化学1 第 3 回 | 教科書 第 3 章

なぜ s は球で、p は二つのローブで、d は四つ葉なのか

量子化学1 第 3 回 原子軌道と確率密度

前回を思い出す(ノートを見ずに)

  1. 一次元の箱の の波動関数は、箱の内部にいくつ節をもちますか
  2. 箱の最低状態()の電子は、静止していますか。理由を一言で

今日も近似の地図の ①「厳密に解ける模型」。最後の模型、水素原子を扱う

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問い 1:軌道の形は、誰が決めたのか

d 軌道の五つの形。高校や一般化学の教科書で見た四つ葉の図

予想を 1 行で書いてください:なぜ球や四つ葉であって、四角や星形ではないのか

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今日の流れ 教科書 §3.1〜3.4

問い 演習
1 水素原子の電子のエネルギーは、どう決まるか A:遷移の波長とイオン化エネルギー
2 三つの量子数は、軌道の何を決めるか B:量子数の数え上げ、軌道の形
3 電子は、核からどこに見つかりやすいか C:節の数、 と動径分布
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水素原子:設定 教科書 §3.1

陽子 1 個と電子 1 個。ポテンシャルは核からの距離 だけで決まる

電気素量  真空の誘電率  電子の質量(あとで出る磁気量子数 とは別)

は の二回微分の和。前回の の三次元版。

  • 求めたいもの 電子に許されるエネルギー と波動関数
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極座標で、距離と角度に分けて解く

核を原点に、電子の位置を距離 と二つの角度 、 で表す

  • (動径部分)→ 軌道の大きさ
  • (角度部分)→ 軌道の形と向き
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変数が三つ → 条件も三つ → 量子数も三つ 教科書 §3.2

変数 波がつながる条件 現れる量子数
遠くでゼロになる 主量子数
両極( 軸上)でも値が有限 方位量子数
一周してもとに戻る 磁気量子数
  • 箱は条件が一つ(両端でゼロ)→ 量子数も一つ
  • 原子は条件が三つ → 量子数も三つ。どれも「つながる波だけが残る」
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一周してつながる波だけが残る

(a) 、(b) は一周して始点に重なる。(c) は継ぎ目が食い違い、許されない

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エネルギーは主量子数 だけで決まる

負の値は、電子が核に束縛されていることを表す。 は、電子が原子から離れた状態。

縦軸は の実スケール。 が大きいほど間隔が詰まり、0 に近づく

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例題:遷移の光とイオン化エネルギー

設定 水素原子(前のスライドの )の の光と、イオン化エネルギー

① 差をとる  の 2 準位の差に 、 を代入する

② 波長 (第 1 回の赤い線)

③ イオン化 電子を まで持ち上げる: → 基底状態()なら 13.6 eV。励起状態()では小さい

① 引く順は (放出でも吸収でも同じ式) 13.6 eV は基底状態から。励起状態からは小さい

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演習 A:水素原子のエネルギー

  1. が負の値なのは、何を表しているからですか。一言で
  2. の遷移で放出される光の波長を求めてください。目に見える光ですか
  3. にいる電子を原子から取り去るのに必要な最小のエネルギーはいくらですか
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演習 A の答え

1  は電子が原子から離れた状態。それより低い → 電子が核に束縛されていること

2 ① 差  0.66 eV

2 ② 波長  1900 nm。赤外線で、目には見えない

3 イオン化は に → 0.38 eV

要点:。遷移は差、イオン化は

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三つの量子数は入れ子になっている

量子数 決めるもの 許される値
主量子数 大きさとエネルギー 1 以上の整数
方位量子数 形(s・p・d・f) から まで
磁気量子数 向き から まで( 個)

の軌道を s・p・d・f 軌道と呼ぶ。、 なら「2p 軌道」。

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例題:軌道を数え上げる

手順 ① を 0 から まで並べる ② それぞれ は 個 ③ 足す

 ① (1s)→ ② は 1 個 → ③ 総数 1

 ① (2s)、1(2p)→ ② は 1 + 3 個 → ③ 総数 4

 ① (3s)、1(3p)、2(3d)→ ② は 1 + 3 + 5 個 → ③ 総数 9

は 0 から まで(2d はない)  の数は 個

  • 総数はいつも 個。水素原子では、同じ の軌道がすべて同じエネルギー
  • 同じエネルギーの状態が複数あることを縮重と呼ぶ
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s は球、p は二つのローブ

色は の符号:正=青、負=橙。p は核を通る面で 。この約束は以後のすべての図で共通

  • 角運動量の大きさは 。s()は 0、つまり向きをもたない → どの向きから見ても同じ球
  • p()は が三つ → 三つの軌道
    • 三つの座標軸をそれぞれ向いた
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形が同じで向きだけ違う → 同じエネルギー

  • は、形は同じで向きだけが違う。空間に特別な向きはないので、三つとも同じエネルギー(三重縮重)
  • d は が五つ → 五つの軌道が五重縮重(冒頭の四つ葉の図)
  • 水素原子では、形の違う 2s と 2p も同じエネルギー( は だけで決まる)。多電子原子では分かれる → 次回
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問い 1 の答え:閉じ込めた波の定在波の形

問い 1 軌道の形は、誰が決めたのか

(a) 縁を固定した太鼓の膜の定在波。(b) 水素原子の軌道の断面。正=青、負=橙、破線が節

  • 縁を固定した膜に立つ波は、決まった模様だけ。核の引力で閉じ込めた電子の波も同じ
  • 節なしが 1s、平面の節 1 枚が 2p、2 枚が 3d、球面の節 1 枚が 2s
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演習 B:量子数と軌道の形

  1. 3f 軌道は存在しますか。理由を一言で
  2. で許される軌道( の組)の総数はいくつですか。そのうち d 軌道はいくつですか
  3. 最初に書いた予想を見直し、問い 1(軌道の形は、誰が決めたのか)に「閉じ込めた波」の語を使って答えてください
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演習 B の答え

1 f は 。 なので、 では は 2 まで → 存在しない

2 ① 総数  で、それぞれ 個を足す: 25 個()

2 ② d 軌道  の 個 → 5 個

3 縁を固定した太鼓の膜と同じ:閉じ込めた波には決まった模様(定在波)だけが立つ → 核の引力で閉じ込めた波に許される形(定在波の形)が、s・p・d の形。誰かが決めたのではない

要点: が大きさとエネルギー、 が形、 が向き。軌道の数は 個

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観測にかかるのは 教科書 §3.4

  • は正にも負にもなる。観測にかかるのは確率密度 (第 1 回。化学では電子密度)
  • p 軌道の二つのローブは、 では符号が逆。 ではどちらも正で同じ大きさ
  • 電子は二つのローブに対称に見つかる。符号の違いは、軌道どうしが重なるとき(第 5 回)に効く
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節: の面は二種類

  • 動径節(球面):核から一定の距離で 。数は
  • 角節(核を通る平面):p が二つのローブに分かれるのは、角節が 1 枚あるから。数は

節の総数は 個。前回の箱と同じ。

2s は球面の節 1、2p は平面の節 1、3p は両方 1 つずつ(合計 2)。破線が節

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例題:節を数える

規則 角節 =  動径節 =  合計 =

3s 、 → 角節 0、動径節 → 合計

3p 、 → 角節 1、動径節 → 合計

3d 、 → 角節 2、動径節 → 合計

軌道の名前を読み違えない:3p の 3 は 、p が

  • 手順:軌道の名前から と を読む(s・p・d・f は 0, 1, 2, 3)
    • 角節は 個 → 残りが動径節
  • 同じ なら合計は同じ。 が大きいほど、球面の節が平面の節に置き換わる
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電子は、核からどの距離に見つかりやすいか

1s の綱引き。密度 (点線)× 球殻の面積 (破線)= (青)

動径分布関数 距離 の薄い球殻に電子を見つける確率

  • 1s の は核の位置で最大
  • ただし核の近くの球殻は小さい → は で 0
  • の山は (ボーア半径、0.0529 nm)
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高校の像と量子化学の像:電子殻と原子軌道

高校の電子殻・ボーア模型 量子化学の原子軌道
電子の描き方 決まった半径の殻や円軌道の上の粒 核のまわりに広がる波
殻の番号 K・L・M 殻 。殻の軌道の数は 個
電子の見つかる場所 殻の上だけ 核の近くから外側まで連続して広がる
  • 原子軌道は、原子の中の電子 1 個の波動関数。電子の通り道でも、電子を入れる容器でもない
  • が大きいほど平均の広がりが大きい。内側にも確率がある → 次回の遮蔽で使う
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演習 C:確率密度と節

  1. 軌道を、位相の符号を色で区別して描いてください。上下のローブで、電子の見つかりやすさに違いはありますか
  2. 4s 軌道と 5p 軌道について、動径節と角節の数をそれぞれ答えてください
  3. 水素の 1s 電子について、 が最大になる場所と、 が最大になる距離を答えてください
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演習 C の答え

1 核をはさんで 軸の上下に二つのローブ。一方が青(正)、他方が橙(負)、角節は 面。見つかりやすさは で、符号によらない → は上下で同じなので、見つかりやすさに違いはない

2 ① 4s 動径節 → 動径 3、角節 → 角 0

2 ② 5p 動径節 → 動径 3、角節 → 角 1

3 一点あたりは 、球殻あたりは (球殻の面積が核の近くで 0)→ は核の位置()で最大。 は で最大

要点:観測にかかるのは 。節の総数は (動径 + 角 )

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まとめ:問い 1 への答え

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教科書で読む範囲 教科書 §3.2〜3.4

節 内容
§3.2 の方程式の解き方( と一周の条件)、 と の方程式
§3.3 の複素数の軌道から、実数の ・ を作る組み替え
§3.4.1 d 軌道の分裂と宝石・錯体の色、軌道の広がりと伝導
  • 授業では扱わない。復習のときに教科書で読む
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次回予告:第 4 回 多電子原子とスピン 教科書 第 4 章

核心 電子が 2 個以上の原子は厳密に解けない。電子どうしの反発を平均に置き換えて、1 電子の軌道で近似する(軌道近似、近似の段 ②)

  • スピンとパウリの原理 → 殻の定員が 2・8・18 になる理由
  • 遮蔽と有効核電荷 :多電子原子で 2s と 2p が分かれる理由
  • 周期表のトレンド(原子半径・イオン化エネルギー)

今日の復習 演習 A〜C を解き直す。小テスト第 3 回を受ける

次回の予習 高校で学んだ電子配置と周期表を見直す。教科書 §4.1〜4.2 に目を通す

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