二原子分子の MO(1):等核二原子(N₂・O₂)

量子化学1 第 9 回 | 教科書 第 7 章の前半(§7.1)

液体酸素は、なぜ磁石につくのか

量子化学1 第 9 回 二原子分子の MO(1):等核二原子(N₂・O₂)

前回を思い出す(ノートを見ずに)

  1. で、原子軌道 2 個から分子軌道はいくつできますか。 のとき、結合性の下がり幅と反結合性の上がり幅はどちらが大きいですか
  2. が安定な分子にならないのはなぜですか

今日も近似の地図の ③「変分法 + LCAO」。 の ・ を、第 2 周期の二原子分子に広げる

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問い 1:液体酸素は、なぜ磁石につくのか

磁極のあいだに留まる液体酸素。投影では動画を再生。配布 PDF では https://www.youtube.com/watch?v=Isd9IEnR4bw

動画: Bob Burk, "Paramagnetism of Liquid Oxygen", YouTube。写真: Bob Burk, "Liquid oxygen in a magnet 2", Wikimedia Commons, CC BY 3.0

  • 液体窒素は同じ磁石を素通りする。磁石に引かれる性質(常磁性)は、対をなさない電子(不対電子)のしるし

予想を 1 行で書いてください:構造式 O=O では電子がすべて対になっているのに、不対電子はどこにあるのか

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今日の流れ 教科書 §7.1

問い 演習
1 原子軌道 8 個から、どんな分子軌道ができるか A: と の見分け方、 の縮重
2 の電子はどう詰まり、結合は何本か B:電子の詰め方、結合次数、HOMO と LUMO
3 の不対電子は、どこから来るか C: 型の分子の磁性、問い 1 の答え
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から第 2 周期の二原子分子へ

(前回) ・(今日)
1 原子がもち寄る AO の 1 個 、、、 の 4 個
二原子で AO 2 個 → MO 2 個 AO 8 個 → MO 8 個

二つの AO が混ざって結合性・反結合性の一組を作る条件

  1. エネルギーが近い
  2. 向き(対称性)が合う。合わないと重なりが打ち消し合い、
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と :正面の重なりと横並びの重なり

結合軸を にとる。 どうしは正面()、 どうしは横並び()。青が正、橙が負

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例題: か かを見分ける

① 軸を決める 結合軸を 軸にとる

② 回してみる 軸のまわりに回して形が変わらない → 。軸を含む面で符号が反転 →

→ と 、 と :回して形が変わらない → (・、・)

→ と 、 と :軸を含む面で符号が反転 → ( が 2 本、 が 2 本)

③ 向きを比べる 上下(または左右)で重なりの符号が逆 → 打ち消して 、混ざらない

→ と :上半分と下半分で重なりの符号が逆 → 重ならない(MO はできない)

② どうしは (2p から だけ、ではない)  にも にも反結合性()がある

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が 2 本ずつ同じエネルギーになる理由

  • 第 3 回:原子の三つの 2p 軌道は形が同じで向きだけ違う → 三重縮重
  • 分子では結合軸が特別な向きになる → 軸に沿った は に回る
  • と はどちらも軸に垂直で、90° 回せば重なる → 同じエネルギーのまま
  • と はそれぞれ二重縮重。偶然ではなく対称性から決まる
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軌道の順序は 2 通り: 型と 型

下から順に
型(〜)
型(・)
  • 違いは と の上下だけ
  • 原因は – 混合
    • と はどちらも軸のまわりに対称で、エネルギーが近いと混ざる
    • どうしが反発して、 が押し上げられる
  • は対称性が違うので混ざれず、動かない
  • O・F は と のエネルギー差が大きく、混合が弱い → 押し上げが小さい
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– 混合:動くのは だけ

(a) 混合なし。(b) どうしが反発し、 が の上へ。(c) と の重なりは 0

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演習 A: と 、 の縮重

結合軸を 軸とします。

  1. どうしの重なりは、 と のどちらですか
  2. 次の組は、、、重ならない()のどれですか
    (a) と  (b) と  (c) と
  3. が二重縮重になる理由を、第 3 回の 軌道の縮重を使って一言で説明してください
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演習 A の答え

1  どうし:軸を含む 面で符号が反転する横並びの重なり →

2(a)  と :どちらも軸のまわりに対称 →

2(b)  と : の正の側と負の側で打ち消す → 重ならない

2(c)  と :同じ理由で打ち消す → 重ならない

3 第 3 回: は向きだけが違う三重縮重。軸に沿った は に回る → と は、結合軸に垂直で向きだけが違う同等な軌道。そこからできる二つの も同じエネルギーになる

要点:結合軸のまわりの対称性で と に分かれ、同じ対称性どうしだけが混ざる

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電子の詰め方と結合次数

詰め方は原子のとき(第 4 回)と同じ:パウリの原理(1 軌道に 2 個まで)、フントの規則(縮重した軌道には、スピンを揃えて 1 個ずつ)

結合次数 (:結合性軌道の電子数、:反結合性軌道( 付き)の電子数)

  • 反結合性の電子は、結合性の電子の効果を打ち消す → 差が正味の結合
  • 電子対 1 組で結合 1 本 → 2 で割る
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例題: に電子を詰める

① 価電子を数える 1 原子の価電子 × 2:N は で 5 個 → 二原子で 10 個

② 型を選ぶ 〜 は 型 → の順

③ 下から詰める パウリの原理(1 軌道に 2 個まで)→

④ 結合次数 :結合性 、反結合性 2 →

⑤ 不対電子 あれば常磁性、なければ反磁性:0 → 反磁性

② 型で詰めると HOMO を と誤る ④ の付いた軌道の電子は反結合性に数える

  • 結合次数 3 は、ルイス構造の三重結合 N≡N と一致
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HOMO と LUMO を名づける 教科書 §7.1

名前 定義 では
HOMO(最高被占軌道) 電子が入っている軌道のうち、最もエネルギーが高いもの
LUMO(最低空軌道) 電子が入っていない軌道のうち、最もエネルギーが低いもの
  • 電子が 1 個だけ入った軌道も「被占」に数える
  • 型の順序()に注意
    • HOMO は ではなく、その上の
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分子が反応し、光を吸うとき、関わるのは HOMO と LUMO

分子に起こること 関わる軌道
電子を奪われる(酸化) HOMO から抜ける
電子を与えられる(還元) LUMO へ入る
光を吸う HOMO の電子が LUMO へ移る
  • 二つの差(HOMO–LUMO ギャップ )は、第 11〜12 回のヒュッケル法で扱う
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演習 B:電子を詰めて、結合次数を数える

どちらも 型の順序です。

  1. (価電子 2 個)の電子配置、結合次数、HOMO、LUMO を答えてください
  2. (価電子 4 個)の電子配置、結合次数、HOMO、LUMO を答えてください。安定な分子になりやすいですか
  3. 「反結合性軌道に電子が入った分子は、安定に存在できない」は正しいですか。 の電子配置を根拠に答えてください
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演習 B の答え

1 ① 配置と結合次数 価電子 2 個を下から詰める → 。 → 結合次数 1

1 ② HOMO と LUMO 被占の最上と空の最下 → HOMO 、LUMO

2 ① 配置と結合次数 価電子 4 個を下から詰める → 。 → 結合次数 0、安定な分子になりにくい(前回の と同じ)

2 ② HOMO と LUMO LUMO は 型の順序で次の軌道 → HOMO 、LUMO ( 型なので より下)

3  の配置 で数える → に 2 個入っているが、結合性 8 個との差で結合次数 3 → 正しくない

要点:価電子を数える → 型を選ぶ → 下から詰める → 。HOMO は被占の最上、LUMO は空の最下

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例題: に電子を詰める

① 価電子を数える 1 原子の価電子 × 2:O は で 6 個 → 二原子で 12 個

② 型を選ぶ ・ は 型 → の順

③ 下から詰める パウリの原理(1 軌道に 2 個まで)→ で 10 個。残り 2 個は二重縮重の へ

④ 縮重した軌道 フントの規則(スピンを揃えて 1 個ずつ)→

⑤ 結合次数と磁性 。不対電子 2 個 → 常磁性

④ 2 個を 1 本の に対で入れない(不対電子 0 は誤り)

  • HOMO は (1 個ずつ入った軌道も被占)、LUMO は
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と の MO ダイアグラム

(左)は で不対電子なし。(右)は に不対電子 2 個

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ルイス構造と MO ダイアグラム:

ルイス構造 O=O MO ダイアグラム 実測
結合の本数 2 本 結合次数 2 一致
電子の対 すべて対 に不対電子 2 個
磁性 反磁性と予想 常磁性 常磁性
  • よくある誤解:「O=O だから電子はすべて対になっている」
  • ルイス構造で分かるのは結合の本数まで。MO ダイアグラムは、どの軌道に電子が何個入るかまで示す
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結合次数が下がると、結合は長くなる

結合次数と実測の結合長。青は から電子を足し引きした系列、灰は と

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演習 C: 型の分子の磁性

  1. 前々スライドの の図で、不対電子はどの軌道に何個入っていますか
  2. (価電子 13 個、 型)の電子配置、結合次数、不対電子の数を答えてください。常磁性ですか。(結合次数 1)より結合は強いですか
  3. 最初に書いた予想を見直し、問い 1(液体酸素は、なぜ磁石につくのか)に「縮重」「フントの規則」「不対電子」の語を使って答えてください。液体窒素がつかない理由も一言で
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演習 C の答え

1 図の (二重縮重の 2 本)で、1 個だけ入った軌道を数える → の 2 本に 1 個ずつ、2 個

2 ① 配置 価電子 13 個を 型で下から詰める →

2 ② 結合次数と磁性  → 結合次数 1.5。不対電子 1 個 → 常磁性

2 ③ と比べる 反結合性の電子が 1 個少ない → より強い

3  の例題の ③④ → 最後の 2 個は、二重縮重した にフントの規則で 1 個ずつ入り、不対電子 2 個が残る。これが磁石に引かれる。 は が空で、電子がすべて対

要点: の不対電子 2 個は、縮重した に 1 個ずつ入った電子

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まとめ:問い 1 への答え

液体酸素の写真: Bob Burk, "Liquid oxygen in a magnet 2", Wikimedia Commons, CC BY 3.0

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教科書で読む範囲 教科書 §7.1

節 内容
§7.1「実応用:磁性と結合の強さを設計に使う」 酸素センサー、磁化率で不対電子を数える方法、分子性磁石・スピントロニクス、分子イオンの安定性の見積もり
  • 授業では扱わない。復習のときに教科書で読む
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次回予告:第 10 回 異核二原子と混成軌道 教科書 §7.2〜7.3

核心 原子が違うと対角項 が違い、分子軌道の係数が一方の原子に偏る(結合の極性)

  • 異核二原子(CO・HF): の永年方程式を解の公式で解く。結合性軌道は電気陰性度の大きい側へ偏る
  • 今日の「近い準位ほど強く反発する」を、二準位の反発として式にする
  • 混成軌道 と、平面に垂直に残る が作る π 系

今日の復習 演習 A〜C を解き直し、 と の MO ダイアグラムを何も見ずに描く。小テスト第 9 回を受ける

次回の予習 電気陰性度と結合の極性、二次方程式の解の公式を見直す。教科書 §7.2〜7.3 に目を通す

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