ヒュッケル法(2):結合次数と電荷密度

量子化学1 第 12 回 | 教科書 §8.3〜8.4

ブタジエンの中央の結合は、なぜ単結合より短いのか

量子化学1 第 12 回 ヒュッケル法(2):結合次数と電荷密度

前回を思い出す(ノートを見ずに)

  1. エチレンの二つの π 準位 と のうち、低いのはどちらですか。理由も一言で
  2. ブタジエンの永年方程式の解 は、どのエネルギーの準位ですか

今日も近似の地図の ④「さらに単純化(ヒュッケル法)」。第 I 部の最後の段の後半

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問い 1:ブタジエンの中央の結合は、単結合か

1,3-ブタジエン の実測の結合長

結合 結合長
エチレンの C=C(二重結合) 1.34 Å
ブタジエンの端の C=C 1.34 Å
ブタジエンの中央の C–C 1.47 Å
エタンの C–C(単結合) 1.54 Å

予想を 1 行で書いてください:構造式では単結合の中央が、単結合より短いのはなぜか

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今日の流れ 教科書 §8.3〜8.4

問い 演習
1 準位が分かったら、係数はどう求めるか A:係数を端から順に求める
2 係数から、電子の分布と結合の強さはどう分かるか B:結合次数、ヘテロ原子の電子密度
3 反応や色に関わる軌道はどれか C:HOMO・LUMO と電荷の出方
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準位が分かったら、次は係数 教科書 §8.3

前回: → 、

求めたいもの 各 MO の係数。行列式の各行は、係数の方程式 1 本

原子 の係数( の を略した)

行目には、原子 とその両隣の係数だけが現れる。

  • 求めた を入れると、 から順に残りの係数が決まる
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端から順に決める:原子ごとの関係式

(a) 原子 の式には と両隣の係数だけ。(b) ()で から順に決まり、4 行目は検算

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例題: の係数を端から順に求める

設定 ブタジエンの係数の方程式に、 の を入れる

① 始めの値  と置く

② 1 行目  →

③ 2 行目  →

④ 3 行目  →

⑤ 4 行目で検算 

⑥ 規格化  →

② ( の符号) ⑥ 規格化してから ・ に使う

  • 内側の炭素(2, 3)の係数が大きい。すべて同符号で、節は 0
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ブタジエンの四つの MO

軌道 節 電子
3 空
2 空
1 2 個
0 2 個
  • は外側が大きく、C2–C3 の間に節
  • π 電子 4 個 → と に 2 個ずつ(被占)
  • 〜 も同じ手順で求まる(教科書 付録 A.3)
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演習 A:係数を端から順に求める

炭素 5 個が直鎖につながった π 系(ペンタジエニル系。隣接は 1–2・2–3・3–4・4–5)

  1. 例題で と置いて始めてよいのはなぜですか。一言で
  2. 最低準位 は です。 から 〜 を端から順に求め、5 行目で検算し、規格化してください。各行は (両端の行は片側だけ)
  3. で係数が最も大きい炭素はどれですか。節はいくつですか
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演習 A の答え

1 各行の式は、係数をすべて同じ数倍しても成り立つ → 方程式からは係数の比しか決まらない。大きさは最後の規格化で決める

2 ① 端から順に  に を入れる

2 ② 検算と規格化 。 →

3 係数の絶対値が最大の炭素を探し、隣どうしの符号の変わり目を数える → 中央の C3()。すべて同符号で、節は 0

要点: を方程式に戻すと、係数は から端から順に決まる。最後に規格化する

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π 電子密度 :原子 に π 電子が何個いるか 教科書 §8.3

の電子数(0, 1, 2)  での原子 の係数

和は被占 MO だけ。

  • は、その MO の電子が原子 に見つかる割合(第 7 章の係数の 2 乗と同じ)
  • ブタジエン:。対称性から全炭素で
  • 中性の炭素は 。ずれ が電荷(正なら正電荷)
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π 結合次数 :隣り合う原子の π 結合の強さ

和は被占 MO だけ。 と は隣り合う原子。

  • 係数が同符号なら正、逆符号(間に節)なら負の寄与。符号をつけたまま足す
  • エチレン:(π 結合 1 本)
  • が大きいほど二重結合に近く、結合は短い
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例題:ブタジエンの と

設定 前のスライドの式 に、四つの MO の表の係数を入れる

① 被占 MO と電子数 下から 2 個ずつ → 、 に 2 個ずつ(端・中央とも同じ)

② の寄与  → 端 、中央

③ の寄与  → 端 、中央

④ 足す ② + ③ → 端 、中央

① 空の は足さない ③ 符号を残す(落とすと が 1.0 になる)

  • 中央は が節をまたぐので、③ が負になる
  • 対称性から
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問い 1 の答え:中央にも π 電子が広がっている

問い 1 ブタジエンの中央の結合は、単結合か

結合 π 結合次数 実測の結合長
エチレン C=C 1.34 Å
ブタジエンの端(1–2、3–4) 1.34 Å
ブタジエンの中央(2–3) 1.47 Å
エタン C–C 1.54 Å
  • 端は二重結合に近い。構造式の二重結合の位置と合う
  • 中央の は 0 より大きい → π 電子が中央にも広がる(非局在化)→ 単結合より短い
  • の大小の順と、結合長の長短の順が一致する
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ヘテロ原子を含む π 系:対角要素だけを変える 教科書 §8.3

  • 電気陰性な原子 X は電子を深く束縛する → X の対角要素を ()
  • なので X の対角要素は炭素より低い(深い)。 が大きいほど電気陰性
  • 非対角要素は のまま(第 7 章の異核二原子と同じ考え方)

X の対角要素は になる。

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例題:C=N の π 系(、π 電子 2 個)

設定 N の対角要素を とする()。

① 行列式を解く  → →

② エネルギーに戻す  → 結合性 ()、反結合性

③ 係数の比 1 行目 →

④ 規格化  → 、

⑤ 電子密度  → 、

② 結合性は が負の根() ⑤ は電子 2 個分で

  • π 電子は電気陰性な N の側へ偏る(エチレンなら両方 )
  • 等核の と比べて、結合性は深く、反結合性の持ち上がりは小さい
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演習 B:結合次数と電子密度

演習 A の 5 炭素 π 系のラジカル(π 電子 5 個)。被占 MO は
、、

  1. 和に入れる軌道と、それぞれの電子数 を答えてください
  2. と を求め、どちらの結合が短いと予想されるか答えてください
  3. ヘテロ原子 X の対角要素を とした C–X の 2 中心 π 系(π 電子 2 個)で、結合性軌道の 、係数 ・、X 上の を求めてください
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演習 B の答え

1 π 電子 5 個を下から 2 個ずつ詰める。和に入れるのは被占 MO だけ → (2 個)、(2 個)、(1 個)。、 は空なので入れない

2 ① 代入  に入れる

2 ② 比べる  のほうが大きい → C1–C2 のほうが短い

3 ① 根  → 。負の根が結合性 → 、

3 ② 係数 1 行目から 、規格化 → 、

3 ③ 電子密度  1.37、

要点: と は被占 MO だけの和。電子数 を掛け、 は符号つきで足す

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例題:HOMO・LUMO とギャップ(ブタジエン) 教科書 §8.4

設定 ブタジエン(π 電子 4 個)。前回の解

① 準位を低い順に並べる ()→

② 電子を詰める 下から 1 準位に 2 個ずつ → 、 が被占。、 が空

③ HOMO と LUMO 被占の最高が HOMO、空の最低が LUMO → HOMO 、LUMO

④ 差をとる  に入れる

④ で正( としない)

  • は差で消える
  • エチレン:
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共役が伸びるとギャップが縮む

炭素 2 個 → 4 個で、 は から へ狭まる

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フロンティア軌道:HOMO と LUMO

フロンティア軌道 HOMO と LUMO の総称。被占と空の境目にある軌道

現象 関わる軌道 注目する量 教科書
反応 HOMO の電子 → 相手の LUMO 係数の大きさと位相 第 11 章
光の吸収(色) HOMO → LUMO へ電子が移る 第 12 章
伝導 で準位が帯になる の大小 第 13 章
  • HOMO は最もゆるく束縛された電子、LUMO は電子を最も受け入れやすい空席
  • 共役が伸びる → が縮む → 吸収は長波長へ
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アリル系の三準位:節が原子の上に乗る

丸の大きさが 、色が符号。(、非結合性)は中央炭素の係数が 0

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例題:電子を 1 個抜くと、電荷はどこに出るか

設定 アリルラジカル(π 電子 3 個)→ カチオン。準位は前のスライドの図

① HOMO を決める 下から 1 準位に 2 個ずつ詰める → に 2 個、 に 1 個 → HOMO は

② 抜ける電子 抜けるのは HOMO の電子 →

③ 各原子の電荷 電荷 = 抜けた軌道の → C1 、C2 、C3

③ 電荷は ずつではなく で分かれる  そのものは被占全部の和

  • ラジカルは 。変わるのは の寄与だけ
  • 検算:カチオンは に 2 個 →
  • 電子を加えるときは LUMO に入り、負電荷は LUMO の に出る
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演習 C:HOMO・LUMO と電荷の出方

演習 A・B の 5 炭素 π 系。準位は ()

  1. 5 本の準位図を描き、カチオン(π 電子 4 個)の電子を詰めてください。HOMO と LUMO のエネルギー、ギャップ を で答えてください
  2. ラジカル(π 電子 5 個、どの炭素も )から電子を 1 個抜いてカチオンにします。 を使って、各炭素に現れる電荷を求めてください
  3. このカチオンに電子を与える試薬は、どの炭素と反応しやすいですか。LUMO の語を使って一言で
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演習 C の答え

1 ① 並べて詰める  を低い順に並べ()、4 個を下から 2 個ずつ → 、(2 個ずつ)、、、(空)

1 ② HOMO・LUMO とギャップ HOMO 、LUMO →

2 抜けるのはラジカルの HOMO の電子。電荷 = ()→ C1・C3・C5 に 、C2・C4 は 0

3 カチオンの LUMO()は 1・3・5 番の炭素で係数が大きく、入ってくる電子はそこに入る → C1・C3・C5

要点:電子を出し入れすると、電荷は HOMO(LUMO)の係数の大きい原子に出る

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まとめ:問い 1 への答え

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教科書で読む範囲 教科書 §8.3〜8.4

節 内容
§8.3、付録 A.3 四次の行列式の展開、〜 の係数の求め方
§8.3 MO ごとの寄与の図(中央の結合次数が小さくなる内訳)
§8.4.1 実応用:分子設計の第一勘(有機 EL の発光色)
  • 授業では扱わない。復習のときに教科書で読む
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量子化学2 の地図:HOMO–LUMO ギャップが第 II 部の物差し

回 共役π系の性質 使う量 教科書
01 非局在化と分子軌道 鎖長 → ギャップ 第 9 章
02 芳香族性 環状の π 電子数(フロスト円) 第 10 章
03 反応の許容と禁制 HOMO・LUMO の位相 第 11 章
04 光吸収と色 ギャップ = 吸収する光子のエネルギー 第 12 章
05 伝導 ギャップ → バンドギャップ 第 13 章
06 機能の設計 ギャップと HOMO・LUMO の位置を動かす 第 14 章
  • 第 II 部では新しい計算法は足さない。今日の HOMO・LUMO・ を使う
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次回予告:第 13 回 期末テスト 教科書 第 I 部 総合演習 B

範囲 第 6〜8 章(第 8〜12 回)を中心に、第 1〜5 章の基礎(演算子・調和振動子・LCAO)。発展節の §6.3.2・§7.3.1 は含まない

形式 全問マークシート四択 19 問、60 分、部分点なし。与える定数・式は問題用紙の冒頭。関数電卓可(通信機能付きは不可)、教科書・ノートは不可

  • 試験は、授業で扱った内容を中心に出題する。正答と一行解説は 1 週間以内に manaba で公開

今日の復習 演習 A〜C を解き直す。小テスト第 12 回を受ける。復習の手引き(期末)の目標 12〜14 に取り組む

次回までに 手引きのチェックリストで × の目標だけ → 思い出して書く → 例題 → 自力問題

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