共役π系とヒュッケル分子軌道

量子化学2 第 01 回 | 教科書 第 9 章

鎖を伸ばすと、π 電子の準位はどう変わるのか

量子化学2 第 01 回 共役π系とヒュッケル分子軌道

前回を思い出す(ノートを見ずに)

  1. エチレンの π 準位を二つ書いてください。低いのはどちらで、それはなぜですか
  2. ブタジエンの HOMO–LUMO ギャップは、エチレンの より大きいですか、小さいですか

近似の地図の ④ ヒュッケル法(量子化学1 の最後の段)。量子化学2 は、この結果で性質を説明する

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問い 1:鎖を伸ばすだけで、なぜ色が変わるのか

  • シアニン色素:両端に窒素、そのあいだを二重結合と単結合が交互に連なる鎖でつないだ色素
  • 鎖を 一単位ずつ伸ばした系列が作れる。原子の種類は変えない
鎖の長さ 短い → → 長い
吸収極大
  • 溶液の色は、黄から赤紫、青へと一段ずつ変わる

予想を 1 行で書いてください:鎖の長さは、π 電子の何を変えているのか

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量子化学2 の進め方

回 π 系で説明するもの 鍵となる量
01(今日) 非局在化と分子軌道 鎖長 → ギャップ
02 芳香族性(安定性) 環状・
03 反応の許容と禁制 HOMO・LUMO の対称性
04 色 ギャップ = 吸収エネルギー
05 伝導 ギャップ → バンドギャップ
06 機能の設計 ギャップを設計する
  • 毎回 manaba の小テスト(練習用・成績外。何度でも受験できる)
  • 評価は第 07 回の定期テスト。試験は、授業で扱った内容を中心に出題する
  • 復習の手引き(PDF)を第 05 回に manaba で配る
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今日の流れ 教科書 §9.1〜9.3

問い 演習
1 π 電子の軌道は、鎖の上でどんな形か A:炭素 16 個のポリエンの節と HOMO・LUMO
2 鎖を伸ばすと、準位とギャップはどう変わるか B:帯の幅とギャップの計算
3 ギャップが縮むと、分子は不安定になるのか C:非局在化エネルギー
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共役系:π 電子は鎖全体に広がる 教科書 §9.1

ブタジエン。(a) 局在化、(b) 非局在化

  • 共役系:二重結合と単結合が交互に並ぶ
  • 隣り合う 軌道が横に重なり、π 電子は鎖全体に非局在化する
  • 電子は広い範囲に広がるほどエネルギーが下がる(教科書 第 5 章の結合の起源)

図の色:位相が 正=青、負=橙(量子化学2 の図はこの色分け)

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ヒュッケル法(量子化学1 の復習) 教科書 第 8 章

  • π 電子だけを扱い、各炭素の 軌道を並べる

炭素 の 軌道  係数

  • 同じ炭素 、隣の炭素 、離れた炭素は 0
  • 重なり積分 (異なる炭素のあいだは 0)
  • 。 を足した準位は、足す前より低い
  • エチレン:
  • ブタジエン:
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準位を並べる:エチレン・ブタジエン・ヘキサトリエン 教科書 §9.2

を基準線にした π 準位。HOMO を青、LUMO を橙で示す

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例題:節を数えて、HOMO と LUMO を指す(ブタジエン)

設定 ブタジエン(π 電子 4 個)の四つの MO。係数の符号は量子化学1 第 12 回の表から

① 節を数える 係数の符号 で隣どうしを比べ、変わる箇所(節)を数える

:なし → 節 0  :2–3 → 節 1

:1–2、3–4 → 節 2  :1–2、2–3、3–4 → 節 3

② 並べる 下から 番目の軌道は、節が 個。節が多いほど高い

③ 電子を詰める π 電子 4 個を下から 2 個ずつ → HOMO (節 1)、LUMO (節 2)

① 係数の大きさでなく符号だけを見る ③ HOMO は下から 2 番目の (最上位の ではない)

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共役鎖は、炭素の点で区切った箱

(a) ブタジエンの係数(色=符号、大きさ=)、(b) 両端を固定した弦の定在波を炭素の位置で読んだもの

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規則:炭素 個の直鎖ポリエン( は偶数) 教科書 §9.2

  • π 軌道は 本(炭素の数と同じ)
  • の節は 個
    • 最低 は全部同符号、最高 は隣どうし交互
  • π 電子は炭素と同じ数 → HOMO は 、LUMO は
  • 箱の中の粒子の (節 個)と同じ規則
  • 鎖を伸ばすことは、箱の長さ を伸ばすことにあたる → 準位の間隔が縮む
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演習 A:炭素 16 個の直鎖ポリエン

炭素 16 個・π 電子 16 個の直鎖ポリエン(二重結合 8 本)について、行列式を解かずに答えてください

  1. π 軌道は何本ありますか
  2. HOMO と LUMO は、それぞれ の何番ですか。節はそれぞれいくつですか
  3. 最低準位 と最高準位 の係数の符号は、それぞれどう並びますか。どちらが高いかを、節の数で説明してください
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演習 A の答え

1 π 軌道の本数は炭素の数と同じ → 16 本

2 HOMO 、LUMO に 。 の節は 個 → HOMO (節 7 個)、LUMO (節 8 個)

3 ① 最低は全部同符号、最高は隣どうし交互 → :16 個すべて同符号(節 0)、:隣どうし交互(節 15)

3 ② 節が多いほど高い → 節の多い のほうが高い

要点:下から 番目の軌道は節 個。HOMO は 、LUMO は

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直鎖ポリエンの準位の式 教科書 §9.2

準位の番号(下から数える)  炭素の数

が大きいほど が小さくなり、準位は高くなる。

  • 確かめ:エチレン()で
  • 余弦は −1 から 1 のあいだ → どの でも、準位は のあいだ
  • 係数は弦の定在波 の形(導き方は教科書 §9.2)
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半円に写すと、準位の並びが見える

半径 の半円を 等分した点の高さが準位。(a) 、(b)

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帯の幅は一定、ギャップは縮む 教科書 §9.3

  • 準位は によらず、幅 の帯の中。帯は広がらない
  • 鎖を伸ばすと、帯の中の準位が 本に増えて密集する → HOMO は上がり、LUMO は下がる
  • HOMO と LUMO は を挟んで対称。それぞれ 離れる

が大きいほど の中身が小さく、ギャップ が縮む。

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例題:ギャップを準位の差から求める(ヘキサトリエン)

設定 ヘキサトリエン(、π 電子 6 個)

① HOMO と LUMO の番号 、 に → HOMO 、LUMO

② 準位  に を代入する

③ 差(LUMO − HOMO) ()

④ 公式で確かめる  を代入する

③ 答えは HOMO のずれ ではなく、その 2 倍 ③ なので は正の量

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鎖長とギャップ

分子
エチレン 2 2.00
ブタジエン 4 1.24
ヘキサトリエン 6 0.89
オクタテトラエン 8 0.69
無限に長い鎖
  • で準位が詰まり、帯(バンド)になる → 第 05 回

炭素数 に対する HOMO–LUMO ギャップ

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演習 B:ギャップを求める

  1. 直鎖ポリエンの炭素を 16 個から 100 個に増やすと、準位が収まる帯の幅 は変わりますか。準位は何本になりますか
  2. 炭素 16 個の直鎖ポリエン(演習 A)の HOMO–LUMO ギャップを、例題の手順で求めてください。
    HOMO は 、LUMO は 。公式でも確かめること
  3. 最初に書いた予想を見直し、問い 1(シアニン色素は、鎖を伸ばすとなぜ色が変わるのか)に「ギャップ」の語を使って答えてください
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演習 B の答え

1 余弦は −1 から 1 なので、準位は によらず のあいだ → 変わらない(いつも から )。本数は炭素の数 → 準位は 100 本に増えて密集する

2 ① 準位  に 、: → HOMO 、LUMO

2 ② 差 

2 ③ 公式で確かめる (一致する)

3  は が大きいほど小さい。吸収する光子のエネルギー = → 鎖を伸ばす → が増える → ギャップが縮む → より小さいエネルギー(長い波長)の光で HOMO → LUMO の励起が起こる → 吸収が から へ動く

要点:帯の幅 は一定。その中で準位が密集し、ギャップ が縮む

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問い 2:ギャップが縮むと、分子は不安定になるのか

  • 鎖を伸ばすと HOMO は上がる:ヘキサトリエン → 炭素 16 個
  • 高い準位に電子が入るなら、分子全体のエネルギーも高くなるのか
  • 「二重結合が多い分子ほど不安定」という言い方を聞いたことがあるかもしれない

HOMO が上がる分と、ほかの被占準位が下がる分。合計はどちらに動くのか

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非局在化エネルギー 教科書 §9.1

:被占準位のエネルギーを電子の数だけ足したもの。:同じ数の孤立した二重結合(1 本 )の和。

  • 比べる相手は、二重結合を切り離してばらばらに置いた参照系
  • なら、非局在化で安定になっている
    • なので、 のような値は負
  • HOMO と LUMO の差(ギャップ)とは別の量
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例題:ヘキサトリエンの非局在化エネルギー

設定 ヘキサトリエン(π 電子 6 個、二重結合 3 本)。被占準位の値は教科書 §9.3

① 被占 3 本に 2 個ずつ  = 被占準位 × 電子数 の和

② 参照系  = 二重結合の本数 × →

③ 差 

④ 二重結合 1 本あたり  ÷ 本数 → (ブタジエンは )

① 1 本の軌道に電子 2 個なので 2 倍する ③ ② の を引く( は安定化の量ではない)

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HOMO は上がるのに、合計は下がる

ヘキサトリエン。基準線 より下がった の分(青)が、上がった HOMO の分(橙)を上回る

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演習 C:炭素 16 個のポリエンの安定化

被占の 8 本は で、

  1. HOMO は、孤立した二重結合の π 準位 より上ですか、下ですか
  2. 非局在化エネルギー と、二重結合 1 本あたりの値を、例題の手順で求めてください
  3. 「炭素 16 個のポリエンは、ヘキサトリエンよりギャップが小さいので、不安定な分子である」は正しいですか。2 の値を使って一言で
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演習 C の答え

1  なので、 の係数が小さいほど高い。 → 上( のほうが高い)

2 ① 被占の和  の和 に電子 2 個 →

2 ② 参照系 

2 ③ 差  。1 本あたり

3 1 本あたりの安定化を、例題のヘキサトリエン()と比べる → 誤り。1 本あたりの安定化は より大きい 。縮むのはギャップで、分子は安定になる

要点:共役を伸ばすと HOMO は上がりギャップは縮むが、被占準位の合計は下がる。ギャップが縮むことと不安定は別

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まとめ:二つの問いへの答え

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教科書で読む範囲 教科書 第 9 章

節 内容
§9.1 「第 I 部からの持ち物」の六段と、エチレンを解き直す例題
§9.2 後半 準位の式 の導き方(係数を定在波と置いて永年方程式に代入)
§9.3 ギャップの公式を和積の公式で導く計算
§9.3.1 実応用:増感色素、色素増感太陽電池、有機 EL と共役長
§9.4 第 II 部での読み方(五つの読み取り軸)
  • 授業では扱わない。復習のときに教科書で読む
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次回予告:第 02 回 芳香族性 教科書 第 10 章

核心 環状共役で π 電子が 個のとき、格別に安定になる(芳香族性)

  • 環状 π 系の準位をフロスト円で作図する
  • ベンゼンの非局在化エネルギー(今日の定義を環に使う)
  • ヒュッケル則 と反芳香族性

今日の復習 ブタジエンとヘキサトリエンの準位と係数を並べ、鎖長とギャップの関係を図にする。小テスト第 01 回を受ける

次回の予習 ベンゼンの構造と、鎖状のブタジエンとの違いを考えておく。教科書 §10.1 に目を通す

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