フロンティア軌道とペリ環状反応

量子化学2 第 03 回 | 教科書 第 11 章

同じ分子なのに、熱と光でなぜ逆の立体ができるのか

量子化学2 第 03 回 フロンティア軌道とペリ環状反応

前回を思い出す(ノートを見ずに)

  1. 平面の環状 π 系が格別に安定になるのは、π 電子が何個のときですか。フロスト円の準位の並びから理由を
  2. ベンゼンが付加反応より置換反応を起こしやすいのはなぜですか

第 II 部の地図の 03「反応」。前回までは準位の高さ、今日は π 軌道の係数の符号(位相)を使う

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問い:熱と光で、逆の立体ができる

(E,E)-2,4-ヘキサジエン(両端に をもつブタジエン)が環を閉じて、3,4-ジメチルシクロブテンになる反応

条件 二つの の向き 生成物
加熱する 環の反対側 trans 体
光を当てる 環の同じ側 cis 体
  • 原料も、切れる結合・できる結合も同じ。違うのは熱か光かだけ

予想を 1 行で書いてください:熱と光で、分子の中の何が変わるから立体が逆になるのか

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今日の流れ 教科書 §11.1〜11.5

問い 演習
1 反応では、どの軌道が働くか A:準位差から働く組を選ぶ
2 結合ができるかは、何で決まるか B:両端の符号で許容・禁制を判定する
3 環が閉じるとき、両端はどちらに回るか C:con / dis と熱・光
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フロンティア軌道 教科書 §11.1

  • HOMO(電子の入った最も高い軌道)と LUMO(空の最も低い軌道)を合わせてフロンティア軌道と呼ぶ
  • 二分子が近づくと、一方の占有軌道と他方の空軌道が相互作用する(第 7 章の二準位の反発)

二つの分子の軌道の重なりに比例する相互作用の大きさ

安定化エネルギー は、分母(占有側と空側の準位の差)が小さい組ほど大きい。

  • 電子は一方の分子の HOMO から、他方の分子の LUMO へ流れる
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エネルギーの近い組だけが強く相互作用する

分子 A の被占軌道群と分子 B の空軌道群。差が最も小さい A の HOMO と B の LUMO の組が主に働く

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例題:準位差を計算して、働く組を比べる

設定 ブタジエン(HOMO )と、Diels–Alder 反応の相手(ジエノフィル)のエチレン(LUMO )・アクロレイン(LUMO )

① 組を決める 占有側の HOMO → 空側の LUMO:ブタジエン → 各ジエノフィル

② 差をとる  → エチレン 、アクロレイン

③ 安定化の比(差の逆比)  → アクロレイン ÷ エチレン 倍

② 差は数直線上の距離(絶対値をとる) ③ 安定化は差に反比例(差が小さいほど大きい)

  • アクロレイン の (電子求引基)が LUMO を下げる → 差が縮み、反応が速くなる
  • 逆の組(ジエノフィルの HOMO → ジエンの LUMO)も候補。差の小さいほうが主に働く
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演習 A:どの軌道の組が働くか

  1. 分子 A の HOMO より一つ下の被占軌道は、反応にほとんど寄与しません。理由を「分母」の語を使って一言で
  2. ジエン D(HOMO 、LUMO )とジエノフィル E(HOMO 、LUMO )。
    (i) D の HOMO → E の LUMO、(ii) E の HOMO → D の LUMO の差をそれぞれ求め、主に働く組を選んでください。(i) の安定化は (ii) の何倍ですか
  3. E に電子求引基を付けて、LUMO が に下がりました。(i) の差はいくらになり、安定化はもとの何倍になりますか
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演習 A の答え

1 :深い被占軌道は相手の LUMO との差が大きい → 分母が大きいので、安定化がとても小さい

2 ① 差 (i) 7.0 eV、(ii) 11.0 eV → 差の小さい (i) が主に働く

2 ② 比 安定化は差の逆比: 1.6 倍

3  5.0 eV、比は 1.4 倍(反応が速くなる)

要点:働くのは一方の HOMO と他方の LUMO。準位差が小さい組ほど強く相互作用する

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重なりの足し算と打ち消し合い 教科書 §11.2

色は の符号(正=青、負=橙)。同符号が向き合えば建設的(上)、逆符号なら核間に節ができて破壊的(下)

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例題:π 軌道の両端の符号を、節の数から読む

直鎖ポリエンの下から 番目の π 軌道 は、節を 個もつ(第 9 章)

設定 ブタジエン(π 電子 4 個)。係数の符号は C1〜C4 の順、両端は C1 と C4

① HOMO の を決める 電子を下から 2 個ずつ詰める → → HOMO は 、LUMO は

② 節の数  個 → は 1 個、 は 2 個

③ 両端の符号 節が偶数なら同符号、奇数なら逆符号 → HOMO は逆符号、LUMO は同符号

HOMO の は 電子数 ÷ 2 両端の符号は節の偶奇だけで決まる(係数の値は要らない)

  • 一段上がるごとに節が一つ増え、両端の関係は同・逆・同・逆と入れ替わる
  • 残りの二つ: は節 0 で同符号、 は節 3 で逆符号
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Diels–Alder 反応:二か所で同時に結合ができる 教科書 §11.3

s-cis のブタジエン(上)とエチレン(下)

  • ジエン(二重結合 2 本)とジエノフィル(1 本)が六員環を一段階で作る
  • 環状の並びで一気に進む反応がペリ環状反応
  • 新しい結合は C1–C6 と C4–C5 の二か所
  • 両端で反応するのは、HOMO の係数が端で大きいから()
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例題:FMO の 3 ステップで Diels–Alder を判定する

設定 ブタジエン + エチレン

① 重なり図を描く 結合ができる二か所を向かい合わせる → C1–C6 と C4–C5(前のスライド)

② HOMO / LUMO を割り当てる 一方の HOMO と他方の LUMO。両端の符号は節 個の偶奇 → ジエンの HOMO (両端 逆符号)、ジエノフィルの LUMO (逆符号)

③ 二か所の符号を見る 二か所とも同符号なら許容、一方でも逆符号なら禁制 → C1 に青、C4 に橙が来るように向ければ、二か所とも同符号 → 許容

② 両端の符号は前の例題から読む(ジエンの HOMO は逆符号)

  • 見るのは、相手と向き合う反応面側のローブだけ
  • 逆の組(ジエンの LUMO :同符号、エチレンの HOMO :同符号)でも、二か所とも同符号 → 同じく許容
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ステップ ③:二か所とも建設的に重なる

ブタジエンの HOMO とエチレンの LUMO 。結合する二か所とも同符号どうしが向き合う

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エチレンどうし(2 + 2)は、熱では起こらない

HOMO (同符号)と LUMO (逆符号)。一端を合わせると、他端は必ず逆符号が向き合う

  • 関わる π 電子:4 + 2 は 6 個()で熱で許容、2 + 2 は 4 個()で熱で禁制
  • 光で一方を励起すると、働く軌道が一段上に移り、2 + 2 は許容になる(理由は周期 3)
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演習 B:両端の符号で許容・禁制を判定する

  1. エチレンの HOMO と LUMO について、二つの炭素のローブの符号を青・橙で描いてください
  2. ヘキサトリエン(π 電子 6 個)とブタジエンが両端どうしで結合する 6 + 4 付加を考えます。
    ヘキサトリエンの HOMO の番号 ・節の数・両端の符号と、ブタジエンの LUMO の両端の符号を答え、熱で許容か禁制かを判定してください。関わる π 電子は何個ですか
  3. 「2 + 2 付加も、二つのエチレンをもっと強く押しつければ熱で進む」は正しいですか。理由を一言で
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演習 B の答え

1 節は 個: は節 0、 は節 1 → :青・青(同符号)、:青・橙(逆符号、中央に節)

2 ① 両端の符号 HOMO は 番目 → ヘキサトリエンの HOMO 、節 2 個(偶数)→ 両端 同符号。ブタジエンの LUMO も両端 同符号

2 ② 判定 二か所とも同符号なら許容 → 熱で許容。π 電子は 10 個()

3 2 + 2 は一端で逆符号が向き合う。符号は距離では変わらない → 正しくない。近づけても打ち消し合い、二本の結合を同時に作れない

要点:結合ができる二か所の両方で同符号が向き合えば許容、一方でも逆符号なら禁制

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電子環状反応:両端をどちら向きに回すか 教科書 §11.4

  • 鎖状のポリエンの両端が回って結びつき、環を作る(逆向きなら環が開く)反応
  • 両端の 軌道は、σ 結合を作るために 90° 回る。回り方は二通り
回り方 名前
両端を同じ向きに回す(両方とも時計回り) 同旋(conrotatory, con)
両端を逆向きに回す(一方は時計回り、他方は反時計回り) 逆旋(disrotatory, dis)
  • con と dis では、端の置換基が環の同じ側に来るか、反対側に来るかが変わる → 立体が違う
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回ったあとで、同符号が向き合うか

上:両端が逆符号なら同じ向きに回す(con)。下:両端が同符号なら逆向きに回す(dis)

  • 見るのは、反応を決める軌道の両端の符号だけ:逆符号 → con、同符号 → dis
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熱と光では、反応を決める軌道が一段ずれる 教科書 §11.5

  • 熱:基底状態の HOMO が反応を決める
  • 光:光を吸収して電子が一つ HOMO → LUMO へ上がる。反応を決めるのは電子の入った一段上の軌道(もとの LUMO)
  • 一段上の軌道は節が一つ多い → 両端の符号が逆になる → 許容される回り方も逆になる
  • ブタジエン:熱は (逆符号)→ con、光は (同符号)→ dis
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準位図で見る:熱の と光の

ブタジエンの π 準位。右の二つの丸は C1・C4 の符号で、一段ごとに同・逆が入れ替わる

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例題:ヘキサトリエンの環化を、熱と光で判定する

設定 π 電子 6 個の直鎖ポリエン(軌道は )

① 働く軌道を決める 熱は HOMO( = 電子数 ÷ 2)、光は一段上 → 熱は で 、光は一段上の

② 節の数  個 → 熱 2 個(偶数)、光 3 個(奇数)

③ 両端の符号 節が偶数なら同符号、奇数なら逆符号 → 熱 同符号、光 逆符号

④ 回り方 同符号なら dis、逆符号なら con → 熱 逆旋(dis)、光 同旋(con)

① HOMO は 電子数 ÷ 2 番目の  ① 光では一段上の で判定する

  • ブタジエン(4 個:熱 con・光 dis)とちょうど逆。π 電子が か かで分かれる
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問いの答え:働く軌道が一段ずれて、回り方が逆になる

問い ヘキサジエンの閉環で、熱では trans 体、光では cis 体。なぜ逆の立体ができるのか

熱では が同旋で回って trans 体、光では が逆旋で回って cis 体(青の実線が新しい σ 結合)

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開環では、切れる σ 結合の 2 個も数える

ビタミン D の生成(B 環の開環)。π 4 個 + 切れる σ 2 個 = 6 個。光では (逆符号)が働き、同旋

  • 開環は閉環の逆反応。開いたあとの鎖の π 電子で数えても同じ(6 個 → 熱は dis、光は con)
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演習 C:con / dis と熱・光

  1. π 電子 16 個の直鎖ポリエンが熱で環を閉じます。HOMO の番号 、節の数、両端の符号、許容される回り方を答えてください
  2. 同じ分子に光を当てたとき、反応を決める軌道と、許容される回り方を答えてください
  3. 1,3,5-シクロオクタトリエン(八員環、二重結合 3 本)が熱で開環して鎖状のポリエンになります。数える電子は何個( か か)で、許容される回り方はどちらですか
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演習 C の答え

1 16 個は に入る()→ HOMO 、節 7 個(奇数)→ 両端 逆符号 → 同旋(con)

2 光は一段上の軌道で判定 → (節 8 個、両端 同符号)→ 同符号なら dis → 逆旋(dis)

3 開環では π 電子に切れる σ の 2 個を足す → π 6 個 + σ 2 個 = 8 個()→ 熱では 同旋(con)

π 電子数 熱 光
(4、8、16 個) 同旋 con 逆旋 dis
(6、10 個) 逆旋 dis 同旋 con

要点:反応を決める軌道(熱は HOMO、光は一段上)の両端が逆符号なら con、同符号なら dis

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まとめ:問いへの答え

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教科書で読む範囲 教科書 第 11 章

節 内容
章の冒頭 ウッドワード・ホフマン・福井の仕事と 1981 年のノーベル化学賞
§11.1 二準位の反発から安定化の式を出す考え方(付録 A.3)
§11.2 後半 両端の符号を、分子の中央の鏡に映したときの対称・反対称で言い換える見方(軌道対称性)
§11.5.1 後半 合成化学で熱と光を選んで立体を作り分ける話
  • 授業では扱わない。復習のときに教科書で読む
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次回予告:第 04 回 共役π系の光吸収と色 教科書 第 12 章

核心 色 = HOMO–LUMO ギャップ = 光の吸収エネルギー。共役が長いほど長波長へ

  • 今日の「光で電子が HOMO から LUMO へ上がる」を、吸収する光の色として見る
  • ポリエンやシアニン色素を箱の中の粒子(自由電子模型)で扱い、鎖が長いほど吸収が長波長へ動くことを導く
  • 発色団・助色団、カロテンなどの天然色素、励起状態と蛍光の初歩

今日の復習 演習 A〜C を解き直す。ブタジエンの熱・光の電子環状反応の立体を、HOMO の位相から描いて予測する。小テスト第 03 回を受ける

次回の予習 光の波長とエネルギーの関係 を確認する。教科書 §12.1〜12.2 に目を通す

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