共役π系の光吸収と色

量子化学2 第 04 回 | 教科書 第 12 章

ニンジンは橙色、トマトは赤色:なぜ分子によって色が違うのか

量子化学2 第 04 回 共役π系の光吸収と色

前回を思い出す(ノートを見ずに)

  1. 二つの分子が反応するとき、主に相互作用するのはどの軌道とどの軌道ですか
  2. ブタジエンの熱による閉環は、同旋(con)と逆旋(dis)のどちらですか。HOMO の両端の位相から

今日は第 II 部の地図の 04「色」。前回と同じ HOMO と LUMO を、光の吸収の目で見る

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問い 1:なぜ分子によって色が違うのか

ニンジンと β-カロテンの粉末、トマトとリコペンの粉末。取り出した色素そのものが橙と赤

写真: congerdesign, "Fresh orange carrots", CC0。102% Yield, "β-Carotene powder", CC BY-SA 4.0。Wilfredor, "Tomatoes", CC0。Jeff Dahl, "Lycopene powder", CC BY-SA 3.0(いずれも Wikimedia Commons)

  • β-カロテンもリコペンも、炭素と水素だけでできた分子

予想を 1 行で書いてください:色の違いは、分子のどこの違いから来るのか

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今日の流れ 教科書 §12.1〜12.4

問い 演習
1 分子は、どの波長の光を吸うのか A:ギャップ・吸収波長・見える色
2 共役が長いと、なぜ長波長を吸うのか B:自由電子模型で吸収波長を見積もる
3 吸った光のエネルギーは、どこへ行くのか C:蛍光・反射・燐光を見分ける
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色をもつとは:吸った光の補色が見える 教科書 §12.1

上の帯が吸収する光の波長、下の帯がそのとき見える色(補色)。青〜青緑を吸えば黄〜橙に見える

  • 可視光はおよそ 〜。一部の波長帯を吸うと、残りの光が混ざって補色に見える
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吸収の仕組み:HOMO の電子が光子を吸って LUMO へ

HOMO の電子が光子 を吸って LUMO へ遷移する。矢印の長さが HOMO–LUMO ギャップ

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吸収波長の式:ギャップと波長は反比例

光子 1 個のエネルギーがギャップに等しいとき吸収が起こる

プランク定数  光速  吸収する光の波長  HOMO–LUMO ギャップ

ギャップが小さいほど、吸う光の波長は長い。

eV と nm で書くと

  • J で出たギャップは で eV に直してから使う
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可視光の窓:〜

。帯が可視域

  • :紫外しか吸わない → 無色
  • 〜:可視光を吸う → 色がつく
  • :吸収の中心は近赤外。帯の裾が赤まで広がり、黒っぽい濃い色
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例題:ギャップから見える色を読む

設定 ある色素のギャップ

① eV に直す  に代入 → (窓 〜 の中なので色がつく)

② 吸収波長  →

③ 補色の図で読む 上の帯(吸う光)の真下が見える色 → は緑 → 見える色は赤紫

① J → eV は で割る ③ 答えは見える色(吸った緑ではない)

  • 逆向き:見える色 → 図の下の帯で探す → 上の帯が吸う光 →
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演習 A:ギャップ・吸収波長・見える色

  1. ギャップ の分子に色はつきますか。可視光の窓と比べて答えてください
  2. ギャップ の色素について、eV の値、吸収波長(nm)、見える色を求めてください
  3. 橙色に見える色素は、どの波長帯の光を吸っていますか。ギャップはおよそ何 eV の範囲ですか
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演習 A の答え

1 可視光の窓 〜 と比べる。 → つかない。 より大きく、吸うのは紫外。無色

2 ① eV  2.25 eV

2 ② 波長と色  550 nm(緑)→ 補色の図で、見える色は補色の赤紫

3 ① 吸う光 補色の図で、下の帯の橙の真上(吸う光)を読む → 青〜青緑(〜)を吸う

3 ② ギャップ  → 〜 2.5〜2.9 eV

要点:。ギャップが小さいほど長波長を吸い、見えるのはその補色

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自由電子模型:共役鎖を箱とみなす 教科書 §12.2

仮定 π 電子は鎖全体を自由に動き、鎖の端から外へは出られない → 長さ の一次元の箱

量子化学1 第 2 回の箱の中の粒子をそのまま使う(そこで見た と同じ式を、 で書いた形)

箱の量子数  電子の質量  箱の長さ(共役鎖の長さ)

準位のエネルギーは に比例し、 に反比例する。

  • 第 01 回のヒュッケル法(鎖が長いほどギャップが縮む)と同じ結論を、 ではなく鎖の長さ から出す
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箱に π 電子を詰める:HOMO は

π 電子 を下から 2 個ずつ詰める。HOMO は (青)、LUMO は (橙)

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ギャップを導く

π 電子の数(第 01 回の は炭素の数)

箱の準位 の二つの差をとり、 を使うと

自由電子模型のギャップ。 は箱の長さ。

  • 計算では を使う( は m で入れる)
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シアニン色素:鎖に沿った原子を数える

(a) シアニン色素。両端の N を含む鎖に沿った原子の数を とし、、

  • 結合長 。(b)(c) は後で使う
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例題:シアニン色素の吸収波長を見積もる

設定 のシアニン色素(教科書 第 12 章の例題)。結合長

① 数える 、。HOMO は 、LUMO は

② ギャップ  に、 を使って代入する

③ 波長  → → 青みがかった色に見える

② 因子は ではなく  ② は nm を m に直して 2 乗

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よくある誤解:「ギャップも で縮む」

(a) 長さ ・電子 6、(b) 長さ ・電子 12、(c) 長さ ・電子 6 のまま(仮想、灰)。(b) のギャップは (a) のほぼ半分

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鎖を伸ばしたときは、比で求める

鎖を伸ばすと も に比例して増える()

一つの準位は 、ギャップは で縮む。

  • 例:(教科書 第 12 章の例題)
    • は 11 → 13、鎖の長さは

鎖に沿った原子が 個の色素の吸収波長

  • の比(1.44 倍)だけで見積もると、 の因子を落とす
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発色団と助色団 教科書 §12.3

  • 発色団 光の吸収を担う共役した不飽和結合の部分(C=C の連なり、C=O、アゾ基 )。共役の長さが を決める
  • 助色団 それ自身は強い色をもたない置換基()。発色団に付くと を縮め、吸収を長波長へ動かす
  • 長波長への移動は深色シフト(レッドシフト)、短波長への移動は浅色シフト
  • 前の図の (b) アゾベンゼンは発色団がアゾ基、(c) インジゴは短い骨格に助色団が付いて青
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演習 B:自由電子模型で吸収波長を見積もる

  1. π 電子 の共役鎖で、HOMO と LUMO の量子数 はいくつですか
  2. π 電子 の色素を、長さ の箱とみなします。(J と eV)、吸収波長、見える色を求めてください()。
    さらに、 と をどちらも 2 倍にすると、 は何倍になりますか
  3. β-カロテンとリコペンは、共役二重結合がどちらも 11 本。リコペンは末端が環にならず開いていて、共役が実質的にやや長い。
    最初の予想を見直し、問い 1 に「ギャップ」の語を使って答えてください
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演習 B の答え

1 HOMO は 、LUMO はその一つ上 → HOMO 、LUMO

2 ① ギャップ  に代入する

2 ② eV・波長・色 eV に直して → 680 nm(赤)→ 見える色は補色の青緑

2 後半 : は 11 → 21、 は 4 倍 → 0.48 倍(ほぼ半分。 ではない)

3 :共役が長いほどギャップが小さく、吸収は長波長へ → リコペンは実質的な が長い → ギャップが小さい → 吸収が長波長側へ寄る → 見える補色が橙から赤へ動く

要点:共役を伸ばすとギャップが縮み()、吸収が長波長へ動く

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問い 2:吸った光のエネルギーは、どこへ行くのか 教科書 §12.4

  • 光子を吸うと電子は HOMO → LUMO。分子は励起状態になる(もとの状態は基底状態)
  • 励起状態は不安定。余分なエネルギーを捨てて基底状態へ戻る
  • 捨て方は二通り:熱(分子の振動)として失う、光として出す
  • 同じスピンのまま、すぐに光を出して戻るのが蛍光

蛍光の光は、吸った光と同じ波長か

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ヤブロンスキー図:吸収・振動緩和・蛍光

から へ吸収(青)、振動緩和で の最下点へ、そこから蛍光(橙)。 からの発光が燐光

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ストークスシフト:蛍光は吸収より長波長

吸った光の振動数  蛍光の振動数

蛍光の光子のエネルギーは、吸った光子のエネルギーから振動緩和で熱として失う分 ()を引いたもの。

  • → 蛍光の波長は吸収より必ず長い(ストークスシフト)
  • 蛍光の色もギャップで決まる:出る光子のエネルギーはおよそ → 有機 EL(第 05・06 回)
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燐光:スピンが反転した状態から、ゆっくり光る

  • 励起した電子がもとと同じ向きのスピンを保つ状態が一重項
    • この はスピン多重度の記号で、重なり積分 とは別
  • スピンが反転した励起状態が三重項 。 の移り変わりが項間交差
  • からの発光が燐光。スピンを反転させて戻る過程は起こりにくく、光を消したあとも長く続く
  • 暗がりで光り続ける蓄光は、原理として燐光の仲間
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例題:光る仕組みを見分ける

設定 洗剤や紙に入れる蛍光増白剤。紫外線を吸って、青白い光を出す

① 吸う光と出る光の波長を比べる 可視光は 〜。短いほうは紫外 → 吸う:紫外( より短い)、出る:青白い可視光

② 反射か、発光か 出る光が長波長 → 蛍光か燐光。同じ波長 → 反射。短い波長は出ない → 紫外 → 可視で長波長 → 反射ではない

③ 蛍光か、燐光か 光を止めてすぐ消える → 蛍光。長く光り続ける → 燐光 → すぐ消える → 蛍光

② 出る光が長波長なら反射ではない ③ 蛍光はすぐ消える(長く光り続けない)

  • 反射なら紫外のまま戻るので、目には見えない
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演習 C:蛍光・反射・燐光を見分ける

  1. ヤブロンスキー図で、吸収の矢印と蛍光の矢印はどちらが長いですか。長いほうの光は、波長が長いですか、短いですか
  2. ある色素に (緑)の光を当てると、(黄)の光が出ました。
    (a) 反射と蛍光のどちらですか。理由も (b) 同じ色素に を当てて、 の光が出ることはありますか
  3. 光を消したあとも、数秒のあいだ光り続ける物質があります。この発光は何ですか。すぐ消える蛍光との違いを、スピンの語で一言で
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演習 C の答え

1 矢印の長さ = 光子のエネルギー。 で、エネルギーが大きいほど短波長 → 吸収の矢印が長い。長い矢印は光子のエネルギーが大きく、波長が短い

2 (a) 出る光が長波長 → 蛍光か燐光、同じ波長 → 反射 → 蛍光。出る光のほうが長波長で、振動緩和で失った分と合う(ストークスシフト)。反射なら のまま

2 (b) ()→ ない。蛍光の光子は、吸った光子よりエネルギーが小さい

3 光を止めても続く → 燐光(三重項 からの発光)→ 燐光。スピンが反転した三重項 から出る光。スピンを反転させて戻る過程は起こりにくく、ゆっくり長く続く

要点:蛍光は振動緩和を経て出る光。吸収より必ず長波長(ストークスシフト)で、反射ではない

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まとめ:二つの問いへの答え

写真: congerdesign, "Fresh orange carrots", CC0。Wilfredor, "Tomatoes", CC0(いずれも Wikimedia Commons)

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教科書で読む範囲 教科書 §12.2〜12.4

節 内容
§12.2 末尾 模型が合う場合と合わない場合(β-カロテンの頭打ちと結合交替。結合交替は第 05 回)
§12.3 後半 助色団の供与型と求引型(第 06 回)、アゾ染料・インジゴ・天然色素の例
§12.4(発展) フランク・コンドン原理:吸収帯に幅がある理由
§12.4 後半 蛍光プローブ、有機 EL(有機 EL は第 05・06 回)
§12.4.1(発展) 吸収の強さ:遷移双極子モーメントとモル吸光係数
  • 授業では扱わない。復習のときに教科書で読む
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次回予告:第 05 回 共役π系のバンド構造と伝導性 教科書 第 13 章

核心 共役を長く伸ばすと、離散的な MO 準位が連続的なバンドになる。ギャップの大小が伝導性を決める

  • ポリアセチレンを非常に長いポリエンとみなし、準位の密集から価電子帯・伝導帯・バンドギャップへ
  • 金属・半導体・絶縁体の違い、ドーピングで導電性が上がる導電性高分子
  • 今日の β-カロテンの頭打ち(結合交替)の理由も次回

今日の復習 演習 A〜C を解き直す。長さの違うシアニン色素の吸収波長を自由電子模型で見積もり、実測の傾向(約 100 nm 刻み)と比べる。小テスト第 04 回を受ける

次回の予習 第 01 回の結果(鎖が長いほど準位が密集する)を見直す。教科書 §13.1 に目を通す

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