共役π系のバンド構造と伝導性

量子化学2 第 05 回 | 教科書 第 13 章

鎖を無限に伸ばすと、準位はどうなり、電気はなぜ流れるのか

量子化学2 第 05 回 共役π系のバンド構造と伝導性

前回を思い出す(ノートを見ずに)

  1. HOMO–LUMO ギャップが小さい分子ほど、吸収する光の波長は長いですか、短いですか。目に見える色は、吸収した光の色ですか
  2. 蛍光の波長は、吸収した光より長いですか、短いですか。理由を一言で

第 II 部の地図:04 色(ギャップ = 吸収エネルギー)→ 今日 05 伝導(ギャップ → バンドギャップ)

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問い 1:微量のヨウ素で、なぜ電気を通すのか

伝導度 の軸(対数目盛)。未ドープのポリアセチレン(橙)に微量のヨウ素を加えると 7 桁跳ぶ(青)

  • 1977 年、白川英樹ら。ポリアセチレン は、とても長いポリエン

予想を 1 行で書いてください:微量のヨウ素は、鎖の中の電子に何をしたのか

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今日の流れ 教科書 §13.1〜13.5

問い 演習
1 鎖を無限に伸ばすと、準位はどうなるか A:準位を並べ、帯に電子を詰める
2 長い鎖なのに、なぜポリアセチレンは電気を通さないのか B:結合交替のバンドギャップ
3 微量のヨウ素で、なぜ電気を通すようになるのか C:ドーピングと有機 EL の発光色
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準位の入る範囲は変わらず、本数だけが増える 教科書 §13.1

炭素 個の直鎖ポリエンの π 準位(第 01 回)

準位の番号(下から数える)  炭素の数

は から までなので、準位はつねに から の間にある。

  • 帯の幅は で、 によらず一定
  • 準位の本数は 本。 に比例して増える
  • 隣り合う準位の間隔は、およそ で縮む(鎖を 2 倍にすると約半分)
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離散的な準位が帯になる: から へ

幅 の中で準位が とともに詰まり、 で連続の帯(バンド)になる

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帯に電子を詰める:価電子帯と伝導帯 教科書 §13.2

炭素 個の鎖に π 電子は 個。下から 2 個ずつ詰めると、 本のうち下半分が満席、上半分が空席

分子(第 01 回) 無限に長い鎖(固体)
被占軌道の集まり 価電子帯
HOMO 価電子帯の上端
LUMO 伝導帯の下端
空軌道の集まり 伝導帯
HOMO–LUMO ギャップ バンドギャップ
  • :価電子帯の上端と伝導帯の下端の間の、電子がとりうる状態のないエネルギー幅
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分子のギャップが、固体のバンドギャップになる

分子の HOMO–LUMO ギャップ が、価電子帯(青)と伝導帯(橙)の間の になる

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例題:準位を並べて、電子を詰める()

設定 ブタジエン(、π 電子 4 個)。 は度で計算してよい()

① 本数と被占 準位は 本、1 本に電子 2 個 → 準位 4 本、電子 4 個で下の 2 本が満席

② 最低と最高  に を代入する

③ HOMO と LUMO HOMO は 、LUMO はその一つ上 → :、:。差

④ 帯との比較 帯は から まで → どれも の内側。HOMO は価電子帯の上端にあたる

② 電卓の角度(度かラジアンか)を合わせる ③ HOMO は下から 番目

  • なので がいちばん低い
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演習 A:準位を並べ、帯に電子を詰める

  1. 鎖の炭素数を 2 倍にすると、帯の幅、準位の本数、隣り合う準位の間隔は、それぞれどうなりますか
  2. の直鎖ポリエンについて、例題にならって ① 準位の本数と満席の本数 ② 最低準位 ③ HOMO と LUMO の差( 単位)を求めてください()
  3. では、HOMO と LUMO の差はいくつに近づきますか
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演習 A の答え

1 帯の幅は で によらない。本数は 本、間隔は約 → 帯の幅は のまま、本数は 2 倍、間隔は約半分

2 ① 準位は 本 → 18 本、満席は 9 本

2 ②  に を代入 →

2 ③ HOMO は 、LUMO はその一つ上 → HOMO 、LUMO 、差

3 間隔は約 で縮む → で 0 に近づく。満席の帯のすぐ上に空席の帯が接する

要点:帯の幅 は一定、本数が増えて間隔が縮み、 でバンドになる

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満席のバンドでは、電気は流れない 教科書 §13.3

  • 電流には、電子が少しエネルギーをもらって移れる空きの行き先が要る
  • 価電子帯が満席だと行き先がない。電場をかけても電子は動けない
  • 動くには伝導帯へ上がる必要があり、そのエネルギーが
電子は動けるか 分類
(帯が重なる、半分だけ埋まる) すぐ上に空きがある 金属
熱や光で一部が伝導帯へ 半導体
常温ではまず上がれない 絶縁体
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金属・半導体・絶縁体をバンド図で描き分ける

金属は帯が重なり、半導体は狭いギャップ、絶縁体は広いギャップをもつ

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問い 2:長い鎖なのに、なぜ電気を通さないのか

  • 演習 A の 3: で 。満席の帯のすぐ上に空席 → 金属のはず
  • 実際の未ドープのポリアセチレン: の半導体。電気をほとんど通さない

無限に長い鎖で、ギャップを開いているものは何か

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答え:結合交替がバンドギャップを開く 教科書 §13.2

問い 2 長い鎖なのに、なぜポリアセチレンは電気を通さないのか

  • 二重結合(短い)と単結合(長い)が交互に並ぶ:結合交替
  • 共鳴積分が (二重結合)と (単結合)に分かれ、帯が上下に割れる

結合の長短の差が大きいほど が広い。 なら 。

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結合がすべて等しい鎖と、結合交替した鎖

(左)は 1 つの帯が半分埋まった金属。結合交替(右)で帯が割れ、下が満席の半導体

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例題:結合交替のバンドギャップと波長

設定 ある結合交替した鎖で 、

① 差をとる 

② 2 倍する 

③ 波長に直す (近赤外)

④ 分類  が なら半導体 → なので半導体

① 和でなく差(和 では紫外になる) ② 2 を掛け忘れない

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ボルツマン因子: が 1 eV 違うと、約 8 桁違う

熱でエネルギー だけ上の状態に見つかる割合

ボルツマン定数  温度

半導体で伝導帯に上がる割合は (電子と正孔が同時にできる)。

  • シリコン()で
  • ダイヤモンド()で
  • 純粋な半導体は、室温ではほぼ絶縁体。熱・光・ドーピングでキャリアを作ると伝導度が桁違いに変わる
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演習 B:結合交替とバンドギャップ

  1. 結合の長さがすべて等しい鎖()では、 はいくつですか。金属・半導体・絶縁体のどれに近いですか
  2. 、 の鎖について、、相当する光の波長、分類を求めてください
  3. 2 の鎖で、室温で伝導帯に上がる割合 を求めてください()
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演習 B の答え

1  で → 。1 つの帯が半分だけ埋まり、金属に近い

2 ①   1.3 eV

2 ② 波長と分類  950 nm(近赤外)。 なので半導体

3  → 。室温ではほとんど電気を通さない

要点:結合交替が を開く。 の大小で金属・半導体・絶縁体が決まる

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ドーピング: 型と 型 教科書 §13.4

型:酸化剤が価電子帯の上端から電子を抜き、正孔(白丸)。 型:還元剤が伝導帯の下端に電子(●)

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伝導度:

キャリア(電子・正孔)の密度  電気素量  移動度(電場あたりの速さ)

  • を決める:バンドギャップ、ボルツマン因子、ドーピング
  • を決める:共役の広がり、軌道の重なり 、分子の並び
  • 有機半導体の移動度は 前後、シリコンは 。電荷が分子から分子へ飛び移る
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例題:ドーパントからバンド図を描く(ヨウ素)

設定 ポリアセチレン()に微量のヨウ素を加える

① 電子を奪うか与えるか 酸化剤は電子を奪い、還元剤は与える → ヨウ素は電子を奪う(酸化剤)

② どの帯の電子か 奪うなら価電子帯の上端から抜く( 型)、与えるなら伝導帯の下端に入れる( 型) → 満席の価電子帯の上端から抜く → 正孔 → 型

③ なぜ動けるか 電流には空きの行き先が要る → 満席が崩れ、価電子帯の中に空きの行き先ができる

④  ドーピングはキャリア密度 を変える → 増えるのは 。 はほとんど変わらない

② 電子を奪う → 正孔 → 型( 型ではない) ③ ギャップを越えさせるのではなく、帯に空きを作る

  • 注意:ヨウ素のイオンが電流を運ぶのではない。運ぶのは帯の中の正孔
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有機半導体と有機 EL:HOMO/LUMO で考える 教科書 §13.5

固体のバンド 有機半導体の分子
価電子帯の上端 HOMO
伝導帯の下端 LUMO
バンドギャップ HOMO–LUMO ギャップ

有機 EL ① 注入:陽極から HOMO へ正孔、陰極から LUMO へ電子 ② 出会い:発光層で同じ分子に集まる ③ 発光:電子が LUMO から HOMO へ

吸収(第 04 回)の逆の過程。例: なら (青緑)。

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有機 EL の動作:注入 → 出会い → 発光

陽極から HOMO へ正孔、陰極から LUMO へ電子。発光層で再結合し、 の光を出す

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実応用:プラスチックで光らせる、発電する

スマートフォンの有機 EL 画面の画素(顕微鏡写真)。赤・緑・青の副画素は別の分子の膜

  • 有機 EL:発光層の分子の で色が決まる
  • 有機太陽電池:有機 EL と逆向き。光がドナー分子の HOMO の電子を LUMO へ上げ、LUMO の低いアクセプター分子へ渡す
  • 導電性高分子:曲げられる電極、帯電防止フィルム
  • 分子の組み合わせの設計 → 第 06 回

写真: Jan Helebrant, "AMOLED display microphoto 001 front", Wikimedia Commons, CC BY-SA 2.0

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演習 C:ドーピングと有機 EL

  1. ポリアセチレンに臭素(ヨウ素と同じく電子を奪う)を加えました。 型、 型のどちらですか。バンド図のどこに何ができますか。 のどの量が増えますか
  2. HOMO–LUMO ギャップが の有機 EL 材料は、およそ何 nm、何色に光りますか
  3. 最初に書いた予想を見直し、問い 1(微量のヨウ素で、なぜ電気を通すのか)に「満席」「正孔」の語を使って答えてください
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演習 C の答え

1 電子を奪う → 価電子帯の上端から抜く → 型。価電子帯の上端から電子が抜けて正孔ができる。ドーピングで変わるのはキャリア密度 → 増えるのは

2  から → 430 nm(青)

3 満席の帯では空きの行き先がない。空席ができれば電子は動ける → 未ドープでは価電子帯が満席で、電子に空きの行き先がない。ヨウ素が電子を抜いて正孔を作ると、価電子帯の中で電子が動けるようになる

要点:ドーピングは帯の埋まり方を変えてキャリア を作る。発光色は

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まとめ:二つの問いへの答え

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教科書で読む範囲 教科書 §13.1〜13.5

節 内容
§13.1 曲線の上の準位の図、間隔が になる一次近似、自由電子模型との対応
§13.2(発展) の導出、パイエルス歪みが自発的に起こる理由
§13.3 代表的な材料のバンドギャップの表
§13.4 ソリトン・ポーラロン(発展)、シリコンの の見積もりと – の図
§13.5 一重項 1 対 三重項 3 と燐光材料、注入のトンネル効果、有機トランジスタ
  • 授業では扱わない。復習のときに教科書で読む
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次回予告:第 06 回 機能性π電子系の分子・材料設計 教科書 第 14 章

核心 HOMO/LUMO とギャップを設計することは、機能をデザインすること

  • 共役長・置換基・ドナーとアクセプターで、HOMO と LUMO を動かす
  • 色素増感太陽電池・有機 EL・有機トランジスタ、グラフェン・カーボンナノチューブ

今日の復習 演習 A〜C を解き直す。「鎖長 → 準位間隔 → バンドギャップ」を自分の図で説明する。小テスト第 05 回を受ける

次回の予習 これまでの 5 回でギャップが何を決めてきたか(色・反応・伝導)を振り返る。教科書 §14.1 に目を通す

復習の手引き(定期テスト) 今日 manaba で配布。第 07 回の定期テストまで 2 週間。目標 18(第 14 章)は次回のあとに

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