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約4分キャリア

AI 時代に求められる力を、やまラボで

2026年6月、政府の有識者会議から「マテリアル革新力強化戦略推進方策」という提言が出されました。

材料(マテリアル)の研究開発で、日本がこれからも世界で「勝ち続ける」にはどうすればいいか。そのための方策をまとめたもので、柱のひとつが「人材育成」です。

読んでいて、やまラボで学生の皆さんが取り組んでいることは、まさにこの人材育成の方向に沿っているなと思いました。

このノートでは、提言のなかで私が気になったところと、やまラボでの学びとのつながりについて、考えていることを少しまとめてみたいと思います。

「マテリアル AI 人材」とは?

提言では、AI を活用して材料の研究開発を進められる人を「マテリアル AI 人材」と呼んでいて、年間3万人を育てる体制をつくることが目標に掲げられています。

5年後には「マテリアルAI人材」という言葉を無くせるまでに一般化

マテリアル革新力強化戦略推進方策〈提言〉(2026年6月)

つまり、AI を使って材料を研究開発することが、5年後には材料の研究者なら誰もが持っている当たり前のスキルになる、ということです。

育てたい人材は、「リテラシー」「見習い」「独り立ち」「棟梁」「業界代表」の5つのレベルに分けられています。このうち「見習い」は、材料系の修士課程の学生全員が対象になるようです。

提言が示す5つのレベル(提言の図をもとに作成)。「見習い」は、下から2段目にあたります。
提言が示す5つのレベル(提言の図をもとに作成)。「見習い」は、下から2段目にあたります。

「見習い」に求められるスキルとしては、次の3つが挙げられています。

  • AI を前提とした研究開発の、基本的な考え方を理解している
  • 実験・計算・文献のデータを、機械が読める形に整理・記録できる
  • AI の結果を鵜呑みにせず、違和感に気づける

「違和感に気づける」とは?

3つのなかで、私がいちばん共感したのは、3つめの「AI の結果を鵜呑みにせず、違和感に気づける」です。

AI は、分子の構造を入力すると、その性質を一瞬で予測してくれます。ただ、AI が返してくるのは、あくまで「それらしい数字」です。その数字が化学としてありえるかどうかまでは、教えてくれません。

たとえば、ベンゼンのような無色の分子について、「可視光を強く吸収する」という予測が出てきたとします。量子化学を学んでいれば、ここで「あれ?」と思うはず。なぜかと言うと、ベンゼンが吸収するのは紫外線で、だから無色に見えるから。分子動力学の計算で、水の密度が 1 g/cm³ から大きくずれていたら、まずは計算の設定を疑うでしょう。

こうした違和感は、AI の使い方を覚えるだけでは身につきません。分子の中で電子がどうふるまい、原子がどう動くのか。その基礎を知っているからこそ、気づける違和感があると思っています。

やまラボでの学び

やまラボには、生物物理・化学工学・光化学の3つのチームがあります。テーマはばらばらに見えるかも知れませんが、追いかけている問いはひとつです。

分子の構造から、どのように機能が生まれるか

タンパク質を「材料」と呼ぶと、少し意外に思われるかも知れません。でも、私たち化学者の眼から見れば、タンパク質も、体の中で機能を発現する高分子材料です。ゴムや多孔質材料と同じ考え方・同じ道具で、その働きを分子から読み解くことができます。

どのチームでも、量子化学・分子動力学・機械学習を組み合わせて研究を進めます。提言の「見習い」の3つのスキルは、やまラボでの研究のなかで、自然と身についていくものだと思っています。

どのチームを選んでも、共通の土台を通して、「見習い」に求められる3つの力が身につきます。
どのチームを選んでも、共通の土台を通して、「見習い」に求められる3つの力が身につきます。

たとえば化学工学チームでは、多孔質材料の細孔の構造を計算で比べて、機械学習で有望な候補を絞り込みます。これは、AI を前提に研究を組み立てることそのものです。

計算の条件と結果は、スクリプトと整理したデータで残すようにしています。自分があとで見返せるだけでなく、機械でも読める形になるので、次の研究や後輩の研究の材料になります。

そして、出てきた数字が電子の状態や分子の動きから見てありえるかどうかは、週1回のミーティングで解析結果を見せ合いながら、一緒に確かめます。「この値、ちょっとおかしくない?」と気づけるようになることが、違和感に気づける力の第一歩です。

卒業研究では、まずこの土台の入口に立ちます。大学院に進学したら、それを自分の研究で使いこなせるところまで進んでいきます。

ますます大切になる「基礎」

AI が当たり前の道具になればなるほど、AI に任せられることは増えていきます。それでも、AI の答えを確かめて、研究や開発の判断に使うのは人です。

だからこそ、AI の答えを分子の基礎から確かめられる人は、これからますます求められるようになると思っています。やまラボが計算化学を基礎から教えることにこだわっているのは、そのためです。

提言では、オンライン教材の整備や、社会人の学び直し(リスキリング)も、人材育成の柱に挙げられています。やまラボでも、計算化学を基礎から学べる教材サイト「CompChem.jp」をつくったり、企業の方向けの研修・講座をお引き受けしたりしています。