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TEXTBOOK

有機量子化学特論

化学を専攻する大学院生に向けて、有機分子の性質と反応を、エネルギーの地形と自由エネルギーから理論的に考える教科書です。全文を PDF で無償公開しています。

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第 0.4.0 版 ・ 2026年11月3日

有機量子化学特論

山本 典史 著 ・ A4 判 466 ページ

大学院の講義「有機量子化学特論」のために書いている教科書です。1 章が授業の 1 回に対応します。講義に合わせて改訂を続けていて、この場所にはいつも最新の版を置きます。

どんな本か

フラスコの中のブタンは、anti と gauche のどちらの形をどれだけとっているか。溶媒を替えると、なぜ酸の強さが変わるのか。水素を重水素に替えると、なぜ反応が遅くなるのか。よく光を吸う分子が、なぜよく光るとは限らないのか。構造式を描くだけでは答えられないこうした問いを、分子のエネルギーから考えます。量子化学・統計熱力学・反応速度論・分子科学の考え方を、それらに慣れていない人にも読めるように書いています。

二つの状態を比べる

「安定化される」で終わらせず、酸性度なら酸と共役塩基、反応の速さなら反応物と遷移状態というように、比べる二つの状態の自由エネルギーの差がどう変わるかで考えます。

説明・予測・設計

どの章も、観測量を決め、比べる状態を決め、モデルで予測し、データと比べて直し、最後に分子の改変案と確かめる実験を選ぶ、という同じ順で進みます。

モデルの前提を省かない

式は最小限にとどめ、分子の絵とエネルギー図を先に置きます。式を使うときは前提を書き、その前提が崩れる場合と、それを確かめる方法を各章の終わりにまとめています。

実験データを読む

NMR、UV-vis と蛍光、サイクリックボルタンメトリー、反応速度の測定など、実験で得たデータの読み方の例を各章に置きました。研究の実例と、略解つきの章末問題もあります。

図の見本

自由エネルギーの図で見る存在比と速さ。存在比は二つの谷の差で、速さは出発する谷から峠までで決まる(第 1 章)
二つの配座から別々の生成物ができるとき。生成物の比は、二つの遷移状態の差で決まる(カーティン・ハメットの原理、第 4 章)
電子移動の前と後の自由エネルギーの放物線。駆動力を大きくしすぎると、かえって遅くなる(マーカス理論、第 6 章)

目次

序章 この授業で「理論的に考える」とは

第 I 部

分子の構造・集団・環境を考える

  1. 1分子の構造とエネルギーの地形
  2. 2分子集団とエントロピー
  3. 3溶媒和と酸・塩基平衡

第 II 部

原子核と電子の移動から反応を考える

  1. 4遷移状態から考える反応速度と選択性
  2. 5振動・零点エネルギー・同位体効果
  3. 6電子移動とマーカス理論

第 III 部

光・触媒・分子設計へ展開する

  1. 7励起状態の緩和と発光分子
  2. 8触媒の状態と反応の速さ
  3. 9理論を統合して分子・反応を設計する

巻末には、付録 A(計算に必要な基礎事項)、付録 B(エネルギー図と反応速度式の読み方)、付録 C(本文の式の導き方)、付録 D(演習の解答と解説)を収めています。各回の講義スライドは、有機量子化学特論の科目ページにあります。

利用について

  • 学習と教育のために、どなたでも無償で閲覧・ダウンロード・印刷できます。
  • 授業や勉強会で紹介するときは、PDF のファイルを配らずに、このページ(https://yamlab.jp/books/oqc/)を案内してください。改訂を続けているので、読む人がいつも最新の版にたどり着けます。
  • 著作権は著者が保有しています。著者の許可なく、再配布・転載・改変・販売することはできません(著作権法が認める引用を除きます)。
  • 引用するときは、版番号を添えてください。
  • 本書の例題・演習の数値は、計算の練習のために作った教材用の値です。実在の分子の測定値ではありません(研究の実例の値を除きます)。
  • 誤りや説明の不足を見つけたら、こちらからお知らせください。次の版で直します。

改訂履歴

全 11 件
0.4.0 ・ 2026-11-03
授業スライド全 9 回の書き直しに合わせて改めた:標準の専門用語に統一(律速段階・対称伸縮・前駆平衡・休止状態・ミカエリス・メンテン型の式・電子供与性の低い/高い D など)、知りたい量を粒の絵などで見せる図を各章に追加、第 3 章を溶媒の粒の絵と連続誘電体モデルとの比較を軸に改稿、第 6 章の距離の話と例題を移動、第 8 章の §8.6 と §8.7 を入れ替え、第 6 章などの溶媒の双極子の向きの誤りを訂正。
0.3.0 ・ 2026-11-01
授業スライド全 9 回の点検と書き直し(スライド点検 3)に合わせて改めた:第 3 章の節の順(§3.5 ボルンの式と水素結合、§3.6 pKa、例題を §3.4 の後ろへ)、第 6 章の再組織化エネルギーの節を §6.4 へ、第 4 章の速度定数の記号(k_P・k_Q)と選択性の定義、第 8 章 §8.7 の例、第 9 章 応用 1 の値、スライドと共有する図とキャプション、化学種の名前を言葉に、言いすぎ・条件の書き落としの訂正。第 1 章のシミュレーションの比を約 1/6 に直した。
0.2.5 ・ 2026-10-27
第 2 章を授業スライド第 2 回の改訂に合わせて直した:節ごとの道筋とつなぎの文、分配関数の意義(集団の G と S)と温度を発展・範囲外に、分子内で水素結合して閉じた形と柔軟な受容体(環を開いた鎖)の立体構造、研究の実例の結晶構造(CSD CAXWUT10)、結合定数 K と ΔG° の目盛りの図、自由エネルギーの段の図の横軸の説明。「払う」などの比喩を、比べる状態を名指しする言い方に改めた。
0.2.4 ・ 2026-10-27
第 2 章を授業スライド第 2 回の改訂に合わせて書き直した:節の順(§2.5 配座のエントロピー、§2.6 温度)、分配関数の説明、例題、分子内で水素結合して閉じた形と受容体の挟める形の小見出しと図、基礎の確認の具体例(18-クラウン-6 と K⁺)、研究の実例の背景と結論。化学種や形の名前を言葉に改めた。
0.2.3 ・ 2026-10-26
峠・谷・地形などの比喩を、導入の 1 か所を除いて専門用語(遷移状態・極小・ポテンシャルの幅・ポテンシャルエネルギー曲面・無放射過程・トンネル効果など)に言い換え、第 1 章の章題と節題、第 2・4・7・8 章の節題を改め、第 1 章に「ポテンシャルの幅」の定義を足した。
0.2.2 ・ 2026-10-25
公開ページの URL を https://yamlab.jp/books/oqc/ に改め(授業の URL と同じ符号に。全文 PDF は /books/oqc/organic-quantum-chemistry.pdf)、奥付の案内を更新。
0.2.1 ・ 2026-10-20
序章の小テストの流れを運用の決定(締切まで何度でも挑戦し最高点を成績に、問ごとの正誤と解説は締切後の復習用ドリル)に合わせ、第 1 章に、氷と水の例(§1.7)と、ギブズとヘルムホルツの自由エネルギーの発展の箱(§1.6)を足した。
0.2.0 ・ 2026-10-17
全原稿を、科学的な正しさと、実験系を含む化学専攻の修士の学生にとっての読みやすさの両面で点検・改稿した。前提の書き落としや言い過ぎ、章末問題の前提(第 5 章)などの誤りを直し、第 4・5・8 章と付録 C の題、節の題と構成を改め、教科書だけの図を約 40 枚足した・描き直した。
0.1.2 ・ 2026-10-17
序章・第 1〜9 章の本文と図を授業スライドに合わせて直し、第 2・6・9 章の図を追加・差し替えた。
0.1.1 ・ 2026-10-16
第 3〜9 章で前提の書き落としや言い過ぎ(ボルンの式の条件、同位体効果の定義、電子移動の距離の測り方など)を直し、序章〜第 9 章の図の軸・色・字の大きさをそろえた。
0.1.0 ・ 2026-10-08
目次と章の骨組みを作成。